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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第1話:特別幕:軍外郭特殊部隊イリーザ、強制制圧作戦
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ルスト、〝彼女〟に語りかける

 ひと休憩終えて、太陽がのぼり始めた11時頃、護送用の馬車が到着する。拘束されていた容疑者たちを移送するのだ。

 制圧した密輸組織の構成員の生き残りを、黒塗りの囚人護送馬車に乗り込ませる。馬車は複数用意され、元首領の彼女――パリスは、唯一の女性だったということもあり一人だけで馬車に乗せられる事となる。


 私は彼女を馬車へと誘導する。

 昨夜戦った時のド派手な彼女の印象とは異なり、顔のメイクもすっかり落ちて、やつれて疲れ果てた本当の彼女がそこにいた。

 胴鎧装束を脱がせられ、簡素な囚人用の灰色のスモックに着替えさせられている。その体も小柄で、顔立ちもまだあどけなく、少女と呼んだ方がふさわしい風貌だった。


「パリス」


 私は、やつれた表情の彼女をあえて名前で呼んだ。

 自分の名前を呼ばれたのは意外だったのだろう。驚いたような表情で振り向いた。


「あなたに、私の権限で弁護士をつけるわ」

「えっ?」


 驚く彼女に私は努めて冷静に言葉を続ける。


「本来ならば事務的流れの一環として国選弁護人がつけられるのだけど、それではあなたの極刑は避けられない。しかしそれでは、あなたの人生はあまりにも辛すぎる。少しでも極刑が避けられるように私選弁護人を用意します」


 だが彼女は。私の言葉に涙を流しながら抗議をした。


「やめてよ! 私が自分で選んだ結果でこうなった! さっさと銃殺でも絞首刑でもなんでもすればいいじゃない! どうせ私にはなんにも残ってない! 同情なんかまっぴらよ!」


 同情、彼女ははっきりとそう言った。だが私は反論する。


「同情じゃないわ。これはあなたの権利よ!」

「権利?」


 私の言葉に彼女は驚いたように目を見開いていた。そんな彼女に私は告げる。


「ええ、たとえどんな罪を犯した人でも、なぜそうだったのか? どういう原因があったのか? を事実を掘り下げて主張する権利はあります。あなたが自らの家と家族を失うことがなければ、あなたは今ここに居ないんです!」


 それは事実だ。あらためて指摘されてハッとした表情をしていた。


「あなたが自らの隠れ場所として使っていた私室に、あの場所には不似合いな1着のドレスがありました」

「あっ……あれ……」


 私が指摘したその事実に彼女は思わずうろたえるように声を漏らした。その声のニュアンスが彼女の本音に違いなかった。


「あの薄桃色のサマードレス。あれを着れる平穏な暮らし、それがあなたの本当の望み。でもそれは二度と帰ってこない。あれはあなたの心の唯一のよりどころだった。違いますか? 国家権力を傘にきての仕掛けられた理不尽に理不尽を重ねたような日々! それへの報復としてあなたは今回の企みを起こした! 決して報われぬことを覚悟しながら! 破滅の道だと覚悟しながら! 違いますか?」


 するとプロアが、私の言葉に合わせるようにそのサマードレスを持ってきてくれた。清潔な布の袋の中にそれを仕舞いながら彼は彼女へとそれを手渡す。


「もってけ。これはあんたのもんだ。私物として持ち出しは許される」


 彼女は金属の手枷をはめられた手でそれを恐る恐る受け取る。私は彼女に言った。


「重い処分は避けられません。ですが最悪の事態を回避して少しでもあなたの心に平穏が訪れるようにお手伝いいたします。それくらいの慈悲は与えられてもよいはずです」


 私がなぜ、そんなことをしたのか?

 多分、彼女への罪悪感はあったと思う。でもそれ以上に、理不尽に理不尽を塗り固めた彼女の人生が見過ごせなかったのだ。

 彼女は震える手で渡されたサマードレスを握りしめていた。


「おとうさん、おかあさん――」


 彼女の頬を滝のような涙が流れ落ちる。


「ありがとう……」


 震える声で彼女はそう言った。確かにそう言ったのだ。


「ごめんなさい」


 それが彼女が残した最後の言葉だった。

 馬車に乗せられ扉が閉められる。格子のはまった小さな窓から彼女の顔がわずかに見える。私と彼女の視線が合う。

 そこにはもう、大それた事をしでかした大罪人の姿はなかった。

 走り去る馬車を私は見送る。


「これで全ての任務は完了ね」

「ああ、そうだな」

「釈然としませんが」


 私の言葉にプロアは言った。


「大丈夫だ。みんなそう思ってる。そうでなきゃ、あの子だけ別馬車にしないさ」


 やっぱりそうだ。馬車を別立てしたのは軍警察の人たちの配慮だったのだ。


 プロアとともに部隊の仲間たちが入る場所に戻って行く。

 野営をしたその場所に戻ると、私を含めて8人の仲間が集まっていた。

 私は言う。


「これで今回の任務に関する全ての作業は完了しました。あとは現場処理は軍警察に引き継がれます」


 私はさらに言う。


「この後は中央首都オルレアに帰還し、所定の報告業務を行なった後に解散となります」


 そこにドルスが皮肉交じりに言った。


「お家に帰るまでが仕事だ、ってやつだな」

「ええ、そういうことです。それでは帰投準備を始めてください。終わり次第出発いたします」

「了解!」


 みんなの力強い声が聞こえる。それだけがせめてもの救いだった。

 それから少しして私たちはその現場を後にした。

 結果報告を軍本部に伝えた後に私たちはそれぞれの暮らしへと戻っていく。次の任務が発令され召集がかかるまで個々の裁量に任せた日々が始まるのだ。

 私も自分の暮らしへと戻っていった。


 

 追記、


 今回の事件の首謀者にして密輸組織の首魁であったパリス・シューア・ライゼヒルトには極刑が〝求刑〟された。


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