夜戦争Ⅰ イリーザ、ベスケスを発つ
それは、ルストたちが地方都市ベスケスにて、デルファイ一味を一網打尽にした後のことだった。
軍警察に生き残りのデルファイを引き渡すと手短に伝達事項をまとめて即座にイベルタルへ向けて出発した。
正規軍の人員輸送馬車に乗り込むと運河線停泊場へと向かう。その車上で会話がかわされた。
ドルスがため息を吐きながら盛大にぼやく。
「かぁ~、あれだけ大立ち回りして一休みもせずにとんぼ返りかよ」
ルストはその情けない愚痴を一喝した。
「そんな悠長なことを言ってる場合じゃないでしょう! 状況は待っていてくれません。デルファイ一味を一網打尽にした以上、奴らの当初の目的だったケンツ博士の懐柔と、精術物資の奪取は失敗、これにより劣勢となった状況をどうにかして取り返そうとするでしょう。もしかすると、強硬手段に訴えるかもしれません」
「強硬手段?」
その言葉を聞かされてさすがのドルスもハッとした表情を浮かべた。
「そういや連中、テロ行為はお手の物だったな」
バロンが冷静につぶやいた。
「ワルアイユで嫌というほど遭遇しましたからね」
「そうだな、そういやそうだった」
流石に今度ばかりは、ドルスも自分の発言の軽率さを悟ったようだ。
「隊長、それでこれからどうするんだ?」
「はい」
ルストは車上で落ち着いた声で説明する。
「まずはイベルタルに向かいます。正規軍の軍用運河船を使えば昼夜慣行で明日にはイベルタルに到達できるはずです。船内での休息となりますが、そこは我慢してください」
だが、その言葉に異論を出すものは居ない。
最高齢のダルム老は腕を組みながら言った。
「仕方あるめぇ、寝るところがあるだけマシさ。糧食の準備は期待できるんだろう?」
「えぇ、軍の兵站部が目的地到着まで支援してくれるそうです」
「それで十分だ」
そこに筋肉質の体で武闘派のカークが言葉を添える。
「事件が完全に解決するまで贅沢は言わんさ」
「そうだな――」
8人の中で最も身軽なプロアは笑みを浮かべていた。
「飲むなら、勝利の美酒のほうがいいからな」
「そのとおりだ」
軍の人員輸送馬車の上、8人は笑いあったのだった。
それからベスケスの運河線停泊場へと到着するとすでに準備を終えていた軍用運河船に乗り込む。ルストたちの火急の状況はすでに伝わっていたから、乗り込むが早いか早速に出発となる。船内には2名の操舵手の他、水先監視役が2名、運河設備の操作役が2名、さらに兵站部から糧食担当が1名乗船していた。
男性7名に女性が1名という事が伝わっていたためか、最大で25名を一度に移送できるその船は前後で仕切られていて、後部にルストが1人で就寝できるように配慮されていたのだった。
交代で船を進めてくれる正規軍兵を後目に、ルストたちは食事をとり、早めに就寝をする。彼らが眠りについている間も、船は順調にイベルタルへと進みつつあった。
翌日目覚めた後、船長役を兼任する操舵手の1人が、ルストたちに話しかけてくる。
「おはようございます。よく就寝できましたか?」
「えぇ、船の操作が巧みなので熟睡できました」
「それは良かったです。本船は予定通り順調に進んでおります。目的地はパルクール停泊場、本日午後夕刻に到着予定です。目的地にはイベルタル駐屯地より迎えの軍用馬車が手配される予定となっております」
「ご苦労さまです。目的地到着まであらためてよろしくお願いいたします」
報告を受けたあと朝食となり、正午近くに昼食となる。だが、ルストは船上で思案にくれていた。
「状況から言って、おそらくはイベルタルの黒鎖勢力は焦っているはずだ。状況を打開する一撃を模索しようとしていても不思議ではない。なにより、イベルタルの対黒鎖勢力は寄せ集め。政治戦略的に強い指導力を持つシュウ女史のような人材は多くても、状況を戦術的に総括できる人材は私以外に居ない――」
ルストは今現在、イベルタルに住する勢力の全図を思い描いていた。そして、ある答えに行き着く。
「やはり、私がイベルタルに帰還することで、イベルタルの市民勢力の戦闘行動は有利になる。だが、逆を考えれば私が到着して指揮を撮ることを黒鎖勢は恐れているだろう。だとすれば――」
ルストは冷静な表情で思案を終えた。そして、ある人物のところに念話で連絡を取ったのだった。







