古 小隆《グァ シェンロン》、覚悟を語る
女武侠の水が問い返す。
「やるんだね? 弔い合戦」
「ああ」
淵が問いかける。
「口火を切りますか? 最後の戦いの」
「ああ」
正が古に覚悟を問う。
「よろしいのですか? 敗北すれば何も残りません」
「だからと言ってこのまま何もせず座っているわけにはいくめえよ」
部屋の中を歩いて地図の上に刺さったナイフを引き抜く。
「旋風のルストって女英雄様を仕留めるのに失敗したところから、全ての歯車が狂い始めている。これを放っておいても、俺たち黒鎖に対する包囲網はより確かなものになるだろう。そうなればいずれ必ずジリ貧になる」
淵が訊ねる。
「それでこの街の連中に再帰不能なほどにダメージを与えるというわけですね?」
「そうだ。明日の朝になれば、猫がシュウ・ヴェリタスを襲ったという事実はこの街全体を駆け巡るだろう。そうなれば、奴らは団結を強めて防衛体制を固める。そこからこちらが巻き返しを図るのは恐ろしく難しくなる。やるなら今だ。
時に淵、正、この街の総攻撃への準備状況はどうなっている?」
すると淵は答える。
「フェンデリオル国内の主だった蒙面の者共はイベルタル郊外の極秘拠点にすでに集結済みであります。総数、約1000名。いつでも行動可能です」
さらに正も答えた。
「物資もすでに調達済みです。いつでも作戦決行が可能です」
「そうか」
「さらにお耳に入れておきたいことが」
「なんだ」
正が告げる。
「オルレアとイベルタルの中間の地方都市ヘルゲルで、デルファイとその配下の一味が一網打尽にされたそうです。デルファイ以外はすべて死亡、デルファイ自身はあの旋風のルストによって捕らえられたそうです」
「いつの話だ?」
「昨日のことです」
「ヘルゲルに女英雄様たちがいたってわけだ。それなら今現在イベルタルにはいない可能性の方が高いな。恐らくは移動中だろう」
「はい、私もその意見には同意です」
さらに淵が付け加える。
「現時点においてエルスト・ターナー率いる軍外郭職業傭兵特殊部隊イリーザのメンバーが、イベルタル都市内にて確認されたという報告は上がってきておりません」
「なるほどそいつは良い」
2人の報告を耳にして古はニヤリと笑みを浮かべた。
「俺たちを遮る最大の障害はいない可能性が高い。しかし、明日の朝になれば猫と水晶宮にまつわる噂話はこの街を駆け巡るだろう。そうなれば俺たちに対する警戒は無視できないものになる。全ての事を動かすチャンスは今しかない」
それまで周囲の話の流れに無関心であるかの如く沈黙を守っていた最も小柄な癖っ毛髪の少女がいた。
彼女――、幻 淑妮は古に向けて問いかける。
「それで? 最終的な手順は? 策は既に練ってあるんだろう?」
「ああ、筋書きはすでに組み立てている。俺の手順はこうだ――」
古は壁に貼られた地図を背に振り向いて、部屋の中の全員にしっかりと聞こえるように語り始めた。







