シュウと|猫《マオ》の対話
どれほどの時間が経過したのか、術をかけたシュウ本人以外はあらゆるものが沈黙した。術の完成を感じ取り、技を止める。
「そろそろいいかね」
シュウの放った精術が止む。吹雪は治り視界が晴れていく。
総石造りのその謁見の間は何もかもが氷結の空間と化していた。
ただ術の源である精術武具を保有するシュウ自身は術の効果から免れていた。
――コッコッコ――
彼女が歩くたびに足音が響き、ロングドレスの裾から足元が見える。
少し大きめの防寒性のある毛皮張りのエスパドリーユだ。
氷結した部屋の中を悠然と歩いて行く。
部屋の中のさまざまな場所へ視線を投げかければ、凍結した人間が氷の彫像と化している。その数全てで6体あり、猫をはじめとする襲撃者たちの成れの果てである。
シュウが氷結したこの部屋の中を歩いていくうちに、猫の配下である5人は亀裂を生じて、次々に瓦解していった。
――ピシッ! ピキッ!――
――ガコッ――
――ドサッ、ザァァァ――
白い氷の中に赤い氷、否、完全に凍りつき芯まで氷と化した人間の成れの果てである。
残された氷像は1つ。
シュウは、その正面に立つと氷像の顔のあたりを軽く突いた。
――コンッ――
猫の顔を覆う氷が剥がれ落ちて猫の素顔があらわになる。その肉体は凍り始まっていたが今ならまだ会話はできそうだ。
「残念だったね。頑張った方だけど悪いけどこっちも命がかかってるんでね、一切の手加減なしで仕留めさせてもらったよ」
返事は出来ないと思われたが、かろうじてその唇が動いたようだ。
「――お前の持っている精術武具は一体何だ?」
彼女が疑問に思っていたのはシュウの持つ精術武具についてだ。
「〝氷結城の女王〟と言ってね私の両腕にはめているロンググローブがその本体さ」
「その手袋が――」
「そういうことさ。一見して精術武具には見えないし、大抵の奴は騙されるんだよ。ただひとつだけ困ったことがあってね」
凍死する意識の中で、猫はシュウの言葉に耳をそばだてていた。
「威力があまりに強すぎてね、建物の外の市街地で能力を発動させようなんてものなら瞬く間に街の一区画そのものを凍りつかせてしまう。それにこの精術武具は細かな調整が効きにくくてね、それならばと屋内専用にしたのさ」
シュウの言葉を猫は真剣に耳を傾けていた。彼女のその変化にシュウも気づいて、その態度を柔らかくさせた。
「それで我々を待ち構えていたかのように――、この部屋に導き入れたのか――」
「そういうこと。この部屋の中の調度品が全て石でできているのもそのためでね、普通の代物は凍りついて砕け散ってしまうからね」
納得がいったのか、猫はそれ以上無理に質問の声を発しない。逆に問いかけるのはシュウの番だ。
「そういや。あんた、組織を追放されたんだってね」
「――!」
猫は驚きの表情を浮かべつつ視線で静かに頷いた。
「私の情報網に噂話が引っかかってね小耳に挟んだのさ。その時、おなかの中の子供を流されたんだって? この襲撃は、その弔い合戦ってやつかい?」
少し沈黙していたが猫は素直に事の次第を打ち明け始めた。







