女王シュウと、首魁マオ、その邂逅
床に絨毯はなく輝くばかりの化粧石が敷き詰められている。テーブルの類はなく椅子も当然用意されていない。
部屋に窓はなく、壁際には額縁が飾られている。しかしそれは不思議なことに白磁の石版で作られておりともに描かれている絵画は、古典名画から模写した図柄を、白磁の石版にほり込んだものだった。
部屋の中央には入口から突き当たりへと帯状に、赤い化粧石の石版が敷かれていた。その突き当たりには玉座が据えられている。
純白の大理石の肘掛付きの椅子、そこに極北狐の白い毛皮を何枚も何枚もつなぎ合わせて作られた敷物を敷いており、その形状はまさに王者の椅子だった。
それは玉座だった。
偉大なる女王を玉座に据えて、彼女に謁見するための、壮麗なる白磁の空間。それはまさにこの巨大都市イベルタルを支配する存在であると暗黙のうちに知らしめるための謁見の間であるのだ。
その部屋は何もないがゆえに距離感が狂うほど広大に感じられた。
扉を開いて足を踏み入れた者の視線は部屋の中央に敷かれた赤い化粧石の石板タイルが示す、一直線の道の向こうに誘導される。
そしてそこに、あの白い大理石と毛皮で彩られた玉座があり、そこに君臨する者の姿を目の当たりにせざるをえないのだ。
「おや? 20名くらいいるって聞いたけど、随分頭数が少ないじゃないか。残りはどうしたんだい?」
玉座に座る女性からかけられた凛とした声に耳目を引かれずにはいられない。猫はその声の主を真っ向から見つめた。
それは女王――
白い色のドレスをまとった美しき雪の女王。
輝くばかりのハイプラチナの銀糸で作られたイブニングドレスを纏っていた。首元から吊るすホルターネックのアームホールデザインで、女性としての美しいプロポーションを隠すことなくより魅力的に映し出している。
両腕にはロングサイズのアームグローブがハメられている。色は白でドレス同様に光り輝いていた。
その美しい漆黒の髪は、いつもならば丁寧に編みこまれているが、ほどかれて背中や首筋へとなだらかな美しいラインを描いていた。
その頭部には大粒のダイヤをあしらった銀色に輝くティアラがあり、その肩から背中に流れるように、純白の毛皮で作られたロングマントを羽織っていた。
その玉座の上から〝女王〟は語りかけた。
「水晶宮総支配人、シュウ・ヴェリタスだ。覚えときな」
自ら名乗ってシュウは語りかけた。
「名前を聞こうか」
名前を問われて猫も自らを名乗る。
「黒鎖〝元幹部〟猫 麗珠」
「ふうん、――〝元〟ね」
シュウは口元に笑みを浮かべ興味深げに猫を眺めると彼女に対してさらに問いかけた。
「来訪の目的を聞こうじゃないか」
その言葉に猫は両腕を振るい身構える。
「御首いただく」
その言葉と同時に配下の紅蜂の四人は手に携えていた矢のない弓を構えた。シュウはその精術武具の正体を即座に見抜いた。
「矢の無い弓矢かい――ああ、燭龍の弓だね?」
「知ってるのか?」
「ああ、どうやって作ったのか複製品が手広く出回ってるって聞いてるよ。本物は知り合いの所にあるからね」
猫は言葉を切り返す。
「知っているなら話は早い。この精術武具の威力は知っているはずだ」







