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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第1話:特別幕:軍外郭特殊部隊イリーザ、強制制圧作戦
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事後見聞とサマードレス

 戦いの場となった地下階を後にして上へと登って行く。それぞれのフロアを確かめながら歩いて建物の外へと出る。

 すると正面入り口の前に主だった顔ぶれが集まっていた。


 私が顔を出すとそれぞれに報告が上がってくる。

 まずはゴアズとカーク、突然の別行動を取り始めたが鋭い勘と力で見事に成果を挙げたようだ。

 まずはゴアズが報告をしてくる。


「敵、極秘脱出ルートより逃走を試みていましたが、先回りしてこれを阻止しました。なお持ち出された精術武具の部品は無事全数回収いたしました」

「ご苦労様です。ガルゴアズ1級、ダルカーク1級」


 組織の壊滅も重要な目的だが、密輸対象となっていた精術武具の心臓部の部品、重要機密であるそれらの持ち出しを阻止できたのは十分すぎる成果だ。

 次が狙撃を担当していたバロンだ。愛用の弓であるベンヌの双角を携えながら彼は報告した。


「報告、指定対象狙撃の後、周囲警戒をしておりましたが特に異常はありませんでした」

「ご苦労様です、バルバロン1級」


 そして残るは私と行動を一緒にしてくれていた3人だ。その中の1人、プロアが報告をしてくれた。


「こっちもあらかた片付いた。精術武具所有者は全て無力化。存在を確認した残りの連中も全て投降した。組織の構成人員の全てを制圧できたかどうか現場の事後見聞待ちだな」

「ええ、事後見聞はあとは軍警察の方たちが行いますのでお任せしましょう。現場鑑識のための増援がもうすぐこちらに来るそうですから」


 だが、まだ懸念がある。


「事前調査でわからなかった退避ルートが多数存在したのが予想外でした。もしかするとまだ未発見のルートがあるのかしれません」


 私がそういえば皆が苦い顔をする。単眼鏡をつけたダルム老が彼らを代表するように声を吐く。


「それは否定できねぇな。なにしろ、3大幹部の1人が未だに補足できてないらしいからな」

「ナンバー3の男ですね?」

「あぁ、施設内に入ったのは間違いないらしいが、遺体も見つかって無いそうだ」

「逃走に成功した可能性ですか」

「あぁそうだ。もっとも、完全壊滅した以上、一人でどうにかできるとは思えんがな」

「そうですね。軍警察の指名手配がかかるでしょうから、捕縛されるのもそう遠くないでしょう」


 そして、ダルム老が皆をねぎらうように告げた。


「それじゃあ、少し休憩しようぜ。向こうの離れたところに軍警察の連中が野営地を張ったそうだ。ドルスと軍の若い連中も加わって準備してくれてるってよ」


 その言葉を聞いた時、一つの仕事の山を越えたのだと感じずにはいられなかった。自然に笑みがこぼれる。


「ええ、そうしましょう。まず、今は一息つきましょう」


 みんなが頷いてくれる。

 私たちは野営地に向かったのだった。


 

 †     †     †



 野営地は雑木林の中に点在する開けた場所を利用して設営されていた。私たちはここで休憩しながら制圧現場を監視・維持することになる。


 天幕が貼られ、火が起こされている。

 その火を利用して、パンと腸詰めで簡易的な夜食が作られている。

 それを受け取り仲間たちと指定された休憩天幕に行く。今夜はこのまま明日の朝まで待機することになる。


 夜食を口にしながら仲間たちと雑談し、夜の歩哨役が割り振られてしまったドルスに同情しながら、私たちは眠りにつく。

 こうして、その日は終わりを告げた。


 悪い夢を見ることもなくすっきりとした気持ちで 朝を迎える。

 私は皆が起きる前に目を覚まして動き出す。

 周囲を散策しながら、今日戦った現場へと向かう。


 現場では交代制で夜間歩哨が制圧現場を監視している。突然ふらりと現れた私に驚きつつも、彼らは敬礼で挨拶をしてくれた。


「ご苦労様、少し中を見させてもらわね」

「はっ!」


 彼らに一言断って中へと入る。

 血生臭い戦いのあった現場の中をつぶさに観察しながら歩いて行く。

 色々な部屋を巡る中で、内装の不似合いな場所が見つかる。白く取られた壁、豪勢なソファ、分厚い天板の机、小型のクローゼットもある。


 クローゼットの中を開けて確かめれば、そこには女性用のコートやドレスがかけられていた。

 あの女性首領の部屋なのだろう。

 到底、犯罪行為を働いている首魁の私室には見えなかった。

 特に、クローゼットの中の薄桃色のサマードレスが、戦闘時の彼女の印象とはあまりにかけ離れていたので記憶に残った。


「ここで〝自分の居場所〟を守っていたというわけね」


 私は少し感傷的になりながら、部屋の中をあれこれと眺めて歩いた。そして、部屋の片隅の小さな暖炉の中に視線を向けた時だった。


「何かしら? 燃え残り?」


 暖炉の中に書類のようなものを見つけた。暖炉の火で焼いて処分しようとしたのは明らかだった。

 しゃがんでそれに手を伸ばして拾い上げる。近くでつぶさに観察すれば、それは明らかに書類だった。


「これは、まさか指令書?」


 その文字をつぶさに見ればあるものを想起させられる。


「フィッサールの東方語に似ているわね」


 フェンデリオルから東に進んだ先のアデア大陸にある連邦国家のフィッサール。

 彼らは独特の表意文字を使う。文字の種類と数が多く非常に特徴的なのですぐにわかる。私も習得している。だが、


「似ているけど微妙に違う。もしかしてフィッサールの言葉に似せた暗号かしら?」


 私はそこに、組織の首領である彼女の背後の存在について何かを感じた。この事件はまだまだ闇が深い。


「あの子一体、誰と繋がってたのかしら?」


 私は急速に冷静になり判断を巡らした。そしてある場所へと連絡を取る。腰に巻いたベルトポーチの中から私だけに与えられていたある特殊な念話装置を取り出した。

 手のひらより少し大きいサイズのクリスタルプレート。それを金属のフレームでかしめたものだ。長四角で縁が少し丸みを帯びている。クリスタルプレートの表面に透かし文字のように名前のリストが並んでいる。

 その中の一つを押して、さらに明るい光で浮かんできたキーワードをそっとタッチする。


送信(センディロ)


 頭の中で相手を呼び出すシグナルが鳴り響いて、聞こえてきたのは少し年をとった実力世代の男性の声だった。


『私だ。黒鷹だ』


 こちらからも問いかける。


『局長』

『ルストか、どうした』

『今のうちにお耳に入れておきたいことが』

『なんだ?』

『局長、表にできない案件です。私独自で調べたいのですがよろしいでしょうか?』

『表にできない?』

『はい。今回の事件の制圧対象組織の首領の人物の背後関係につながるものです。外国語に似せてある極秘文書です』


 私の言葉に念話の向こう側の人物はほんの少し思案していた。


『とりあえず、私のところに来い。話はそれからだ』

『どうしてもですか?』


 私がそう問いかければ向こう側で思案しているのが伝わってくる。そして一言、


『本来であればな』


 局長は言った。


『だがお前の気性からいって、いちいち私の所に来るのはわずらわしいだろう』

『はい、まどろっこしいのは嫌いですので』


 向こう側で苦笑しているのが伝わってくる。


『特別に独自調査を許可する。ただし結果は詳細に伝えること。いいな?』

『了解、調査後にそちらとコンタクトを取ります』

『ああ、待ってるぞ』

『では改めて』


 そう言葉を交わして通信を終えた。

 安息の日はまだまだ来そうにはなかった。


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