奪回行動Ⅶ ―闘い決着する―
そして元来た道を戻ると先ほどの敵との遭遇地点ではすでに軍警察からの支援部隊が到着していた。拉致実行犯のそのほとんどがイリーザのメンバーたちの攻撃により死んでいるか瀕死の状態に陥っていた。
死に物狂いの抵抗があったことや、拉致されていたケンツ博士の妻子のお2人の生命の安全を優先したことで、やむを得ない状況ではある。軍警察の官憲たちには渋い顔されたが、これはこれで納得してもらうよりほかはない。その代わり拉致監禁の実行主犯であるデルファイは生け捕り逮捕することができたのだから。
駆けつけた20名の軍警察隊員の中から6名ほどがデルファイの収容に向けて向かってくれた。これで無事デルファイを拘束できれば、以前に関わった〝闇夜のフクロウ〟に関する一件はほぼ解決ということになる。
ある一点を残して。
イリーザの仲間たちを前にして私は言う。
「これで後の残りは黒鎖の本隊とその首謀者である古小隆のみと言うことになります」
ドルスがぼやく。
「一番面倒くさいところが残ったな」
プロアがそれをたしなめた。
「そう言うなって。イベルタルの重要人物たちも本気になって協力してもらえることが確定している」
そしてさらにそこにカークさんがしみじみと言葉を口にした。
「イベルタルはもとより、フェンデリオルが立ち直れるかの瀬戸際になるだろうからな」
バロンさんがそれに同意するかのように語る。
「それほどまでに黒鎖の問題は根深い。一番の核心の部分に一気に攻め込むことができる。そう考えればここから先は最大のチャンスと言っていいでしょう」
むろんその言葉に皆が同意していた。
そしてそれをよそ目に拉致から解放されたケンツ博士の奥さんと娘さんをパックさんとゴアズさんが様子を見ていた。
恐ろしく不安に満ちた拉致監禁から解放されてもなお奥さんの表情は暗く曇ったままだった。そんな彼女を落ち着かせるようにゴアズさんが相手をしている。
そしてさらにその傍らにケンツ博士の娘さんを診察していたのがパックさんだった。特にその眼を気にしているようだった。
「もう一度ゆっくり開けてごらん――、どうかな? 私の顔が見えるかな?」
「見えない、チカチカする」
「ふむ、お医者さんでちゃんと診てもらった方がいい。後で連れて行ってあげよう」
「うん」
「もう怖いことはないから、安心していいからね」
「うん」
優しく教え諭すように女の子を相手にしている。そしてある程度の容態を掴んだことでそれをもとに軍警察の隊員に支援を求めた。病院への搬送が必要なこと。2人とも衰弱が激しく女の子の方は目の痛みを訴えていることを伝える。
「制圧行動中に敵の目くらましのために閃光弾を使ったようです。女の子はそれをまともに見てしまったようなので医師による適切な治療をお願いいたします。早期に治療すれば問題ないものと思われます」
「了解いたしました。最優先で搬送いたします」
「よろしくお願いいたします」
軍警察とのやり取りと引き継ぎを全て終えて私たちはその場から離れて集まっていた。
パックさんは皆に報告していた。
「ケンツ博士の娘さんが目の痛みを訴えていましたね。強い光を受けたようです」
その報告にドルスが思わず頭を掻いていた。
「あー、それ俺の閃光弾だ。まともに見ちまったんだな」
私は心配になり思わず問いかけていた。
「大丈夫なんですか? 失明しなければいいのですけど」
だがパックさんはそれほど慌てたようではない。
「花火の光をまともに見た時にも同じ状態になります。まぁ目元を冷やして安静にすれば時期に回復するでしょう。軍警察の方にも最優先で病院に運ぶようにお願いしましたから」
するとその傍らでドルスが困惑していた。
「馬を暴れさせずに静止させようとしたんだが、うまく行かないもんだな」
その言葉にカークさんは慰めるように言葉を吐いていた。
「仕方あるまい。あの状況で馬を足止めできなかったらもっと大変なことになっていたからな」
「それもそうか。もっと別な場所に連れ去られていたら下手したら命の危険もあったからな」
「そういう事だ。命あっての物種だ」
「その通りですね、命あってこそです」
「ああ」
ひとつの古代を見たことで私たちはうなづきあっていた。
「それでは、一旦、近くの正規軍詰所に向かいましょう。その上でしかるべき場所に連絡を取って今後の対応について話し合いします」
「了解」
「異議無し」
私たちは馬と馬車に分乗してその場から去っていった。状況報告と一旦休憩を取るためだ。そして、いずれ来る次なる事件に備えなければならないのだから。







