奪回行動Ⅶ ―ルスト、身体拘束する―
私は彼の近くに馬を進めると、馬上から彼の生死を確かめた。一見して死んではいないようだ。まだ息はある。
「精術、銀蛍の楔」
その聖句と共に撃たれた光は連射性よりも一発の密度を重視している。私はそれで奴の太ももを打ち抜く。
――ジュオッ!――
より高熱を伴う光の照射でやつの右太ももに貫通する傷を負わせる。
「ぎゃぁぁぁっ!」
悲鳴よりひどい叫び声が上がる。当然だ、光とはいえ高熱を伴う炎のようなもの。真っ赤に焼けた鉄の棒で太ももを串刺しにしたようなものなのだ。
「痛いか? デルファイ? でもあなたが安住の地を奪い去ったパリスが感じた苦痛はこんなものじゃない! あの子が感じた絶望をあなたにも味わってもらう!」
私はこの男を見るたびに闇夜のフクロウと言う組織で傀儡として祭り上げられていたパリスと言う少女のことを思い出す。彼女は絶望を感じた末に破滅の道を選んだ。しかしそれすらもこの男さえいなければ起きなかったのだ。
そして今、ケンツ博士とその家族を過ちと苦しみの底に引きずり込んだのだ。全ては自分が生き延びるというたったそれだけのために。
私は馬から降りるとやつが手にしていたイシュタムの涙を蹴り飛ばす。そして、腰に巻いているベルトポーチの中から逮捕者の捕縛用の鋼線入りのロープでその手首を縛り上げた。腕や太ももから出血しているが、とりあえず太ももの出血のみ紐で止血をしておいた。それ以上のことはする義務は無い。
私は念話装置を取り出して最寄りの軍本部へと連絡した。デルファイの護送のための人手と運搬手段を貸してもらうためだ。すると意外な答えが返ってきた。
『防諜部局長からの要請で、すでに支援部隊を軍警察拠点から派遣しています。すぐにそちらにたどり着くでしょう』
『ありがとうございます。ご協力感謝いたします』
そして私はさらにイリーザの仲間たちへと連絡をとる。
『こちらルスト、そちらの様子はどう?』
すると答えを返してくれたのはプロアだ。
『こちらプロア、拉致被害に遭っていたケンツ博士のご家族は無事保護した。拉致実行犯たちは激しい抵抗したため全て討ち取った』
嫌な予感がしたがあえて尋ねた。
『逮捕できた生存者は?』
『こちらには居ない』
『全員死亡というわけね。私が捕らえたデルファイを除いて』
『そういうことだ』
『了解、仕方ないわね』
さすがにこれにはため息しか出ない。生け捕りにする数が多ければ多いほど得られる情報は多いのだけど、戦闘が激しくなるとどうしても生け捕れる犯人の数は減る傾向にある。
『局長様への言い訳だったら俺たちも考えてやるよ』
『大丈夫よ何とかするから。軍警察から犯人収容の支援部隊が送られてくるから協力してあげて』
『了解』
私は通信を終えると念話装置をしまいこむ。
さらに私は重症のデルファイを眺めながら馬に跨りなおす。
「死にたくなければ無理して逃げないことね。下手に動いて傷口が開いたら確実に出血死するわよ」
そして馬を操ってもと来た方向へと戻る。
「そこで大人しくしていれば軍警察の官憲さんたちが〝やさしく〟助けてくれるから。安心して待っていなさい」
私が放った軍警察と言う言葉にデルファイは怯える顔を見せていた。犯罪者達の間ではフェンデリオルの軍警察の容赦の無さは誰もが知るところだからだ。
「か、勘弁してくれ――」
デルファイは命乞いを始めた。やつは闇夜のフクロウの時に国家戦略物資である精術武具の分解解析と心臓部部品の国内持ち出しを行っている。国家反逆罪で大罪扱いされるのに十分すぎるのだ。それ相応の扱いにはなるだろう。
私は彼に一瞥もせずに走り去る。
「謝るぐらいなら、最初から真面目に生きることね」
私はその言葉を残してそこから立ち去った。この男のことなど知ったことではない。







