奪回行動Ⅰ ―監視対象異変あり―
私とドルスは、馬を駆ってヘルゲルの街から一路西へと向かった。
馬を操りながら左手で念話装置を操作して全員一斉通報を行う。
『こちらルスト。今からそちらへ合流します。先行してルプロア準一級を向かわせました。それからそちらの状況を知らせてください』
私からの問いかけの言葉に返事が返ってきたのはカークさんだった。
『こちらは現在なおも、監視活動を続行中だ』
『了解です。異常があればすぐに知らせてください』
まずは最初のやりとしてはこんなものだろう。私たちは軽快に馬を走らせた。農村地帯の草原を背景に私たちはひた走る。だが時間が進むにつれて状況は刻々と変化していた。
2つ目の念話がカークさんからもたらされる。
『こちらカーク、状況に変化が起きた。保護対象が軟禁されている建物に馬車が運び込まれた』
『馬車が?』
『4人乗りで2頭立ての馬車だ』
次の指示が待ち望まれている。重要な判断局面だった。読み誤れば博士の妻子は私たちの手の届かない所に行ってしまうだろう。
しかも運び込まれたのは4頭立て、明らかに早い移動と長距離の移動をそれぞれ視野に入れている。何しろ、ケンツ博士は目的とした重要物質の詐取に失敗したのだ。黒鎖と言う組織と、現在の黒鎖の連中の凶暴さから考えて妻子に何らかの危害を加える可能性は十分に考えられるだろう。そういう状況下で軟禁場所に馬車を持ち込んだのはそこからの移動が始まったと考えるべきだ。移動した後はさらなる場所にて軟禁するか、あるいは処分をしてしまうか、そのいずれかだろう。
『先行監視しているメンバーに告げます! 突入を許可します! ケンツ博士の妻子が馬車に乗せられた段階で強行突入! 車上の妻子を奪回してください! 無論、生命の危険が予見される場合は即時突入を許可します! ルプロア準1級はそちらの現在位置を知らせてください』
『こちらプロア、現在、カークのおっさん達のところに向かってる途中だ。上空からの監視は継続する』
『よろしくお願いします』
念話装置の接続を切らないままにしてドルスに告げた。
「ドルス! このまま一気に目的地に直行するわよ! 飛ばすから必ずついてきて!」
「おう!」
威勢のいい声がする。士気は高く、勢いに満ちている。かならずや罪のない二人を救い出そう。
そして、私は馬をひた走らせた。
先行してプロアが向かっているから彼が現地合流に成功すれば敵の逃走は充分に阻止可能だ。そう思っていたが事態は予想外に早く動いていた。
『こちらカーク! 隊長に報告!』
『どうしました?』
現地で監視をしていたカークさんからの入感だった。私はそれに問い返したが帰ってきた答えは衝撃的なものだった。
『馬車はオトリだ!』
『なんですって?』
『別動していたプロアが気づいた! 邸宅の裏口から数頭の馬で連れ出していた。すまん!』
事態が急変を告げる。誘拐し売り飛ばすつもりなのか、別な場所で密殺するつもりなのか、判断は難しいがケンツ博士が失敗し逮捕された以上、これ以上、拉致監禁を継続することは無意味なのは確かなのだ。そして、この時を逃せば次にケンツ博士の妻子を保護することは困難になるだろう。
私は思考を即座に巡らせ対策を講じた。
『ルプロア準1級! 敵位置補足!』
『抜かり無い! すでに追跡を開始している!』
『敵に悟られないように最大限に注意してください! 追跡されていることに気づかれると拉致被害者が殺される危険があります!』
『分かった!』
それを受けて私は全員に向けて命令を発した。
『監視組は移動手段を確保して追跡を開始してください! 私とルドルス準1級は先行追跡情報を元に先回りします!』
するとゴアズさんの声が聞こえた。
『敵が陽動のために持ち込んだ馬車を確保しました! 馬が使い物になりませんでしたが、パックが近隣農家を確認したので代馬をそこから臨時徴用します!』
『了解! 後日保証すると先方に伝えてください! 各自行動開始!』
『了解!』
情報のやり取りの後に一斉に了解の声が響く。その後の行動も安心を持って期待できる物だ。そもそもが、私たちの部隊は指示待ち人間は居ない。それぞれがそれぞれに得意分野を持ち、独自の判断で臨機に対応できる能力を持っている。私はそれを見越して全体の行動方針を決定しているだけにすぎないのだ。







