念話一斉ミーティング、一路ヘルゲルへ
運河船の発着場に向かう途上、私は早速あるものを起動させた。ガリレオさんに作り上げてもらった、あの超小型念話装置だ。
私は自分のベルトポーチから愛用の薄型の小型念話装置を取り出す。
設定したモードは――
【tuta voko】
私を中心として全体で一斉に同時通話するモードだ。私の傍にいるプロアを含めて、イリーザ全員に一斉に信号が送られた。
少しばかりの呼び出しシグナルの間隔の後に次々に接続が集まる。
【Proa】
【Dorus】
【Kark】
【Baron】
【Goaz】
【Pack】
【Darm】
水晶版の表紙の上に回線が繋がった装置の保持者の名前が浮かび上がる仕掛けになっているのだ。数は7人、私を加えて8人、私は彼らに対して語かけはじめた。
『こちらルスト、皆さん聞こえますか?』
その問いかけに次々に声が返ってくる。
『こちらランパック、感度良好です』
『ドルスだ、よく聞こえる』
『カークだ、よろしく頼む』
『ゴアズです、音声良好です』
『こちらバロン、音声問題なし』
『こちらダルム、念話信号問題ない』
数はそろった。
『皆さん。ありがとうございます。現在私の隣にはプロアが居ります。まずは各自の状況を報告願います』
私のその問いかけに最初に返事を返してきたのはドルスだ。
『俺は現在、カークの旦那たちのところに合流している。場所はオルレアとイベルタルのほぼ中間にあたる都市で〝ヘルゲル〟と言う街だ。そこの軍警察都市警備部隊の駐屯基地に一室を借りて拠点としている』
『それでは私たちはそちらに行けばいいのね?』
『そういう事だ。保護対象となる人物は現在カークの旦那たちが補足している』
次に声を発したのは名前が出たカークさんだ。
『俺たち、探索組は現在、ケンツ博士の妻子を探していたが、監禁先の場所を突き止めた。ケンツ博士の現在の住処を調べていたところ、逆に俺たちを監視している不審な連中を確認した。バロンに頼んでベンヌの双角でそいつらの足取りを追う事に成功した』
『それで首尾の方は?』
『追跡に成功した。場所はヘルゲル郊外の森林地帯の片隅にある邸宅で、ケンツ博士の奥さんとおぼしき人影も確かめた。現在悟られないようにして監視を続行中だ』
さらにパックさんの声がする。
『邸宅の外には男性しかいないのですが。周辺で聞き込みを行ったところ、東方人の経営する薬店で〝逍遙散〟と言う漢方薬を購入した不審な男がいたそうです』
『それはどういう薬なのですか?』
『身体の疲れや精神的ストレスから来る体調の乱れ、特に〝生理不順〟に対して使われる薬です。なんでも連れの女性が女性特有の腹の痛みで寝込んでいるから良い薬はないかと言うのでその薬を勧めたそうです。目つきの悪い男で立ち振舞いが乱暴であり、とてもではないが奥さんや恋人がいるような印象の良い人物はなかったそうです』
『なるほど、拉致監禁してるケンツ博士の奥さんが軟禁生活で体調を崩している可能性があるわね』
私は今後の行動判断を皆に告げた。
『皆さんはその不審建物の監視を続行してください。もし何か異常な点があればすぐに連絡をお願いします。そして、ダルムさん。あなたは今現在どちらに?』
『俺はイベルタルにに居る。通信仲介をやってくれていたリサのところに居る。何かあればシュウ女史とも、何時でも連携が取れるように準備をしておく』
『各自報告ありがとうございます。各自はそれぞれ現在の状況を続行すること。私は駐屯基地のドルスさんのところに合流します。その上で救出行動開始しようと思います。監視組はケンツ博士の奥さんがそこに居るとする確実な証拠を抑えてください』
私は皆に向けて一斉に告げた
『それでは早速行動開始!』
その言葉に皆から一斉に声かかってきた。
『了解』
『了解です』
『心得ました』
『了解した』
『了解』
『了解だ』
私の傍ではプロアがうなづいている。
『それでは後ほど』
そう残して回線を切った。そして私はプロアに告げる。
「行くわよ。ヘルゲルへ」
「わかった」
力強く応えてくれる彼に私は少なからず安堵していた。そして馬車は運河船の発着所へと着く。そこで私は貸切のチャーター船を確保する。それに乗り込み一路、ヘルゲルへと向かったのだった。







