ルスト、国政議員たちに詰問される
私の出した答えにじっと耳を傾けてくれたノストラ議長は更に問い返してきた。
「失敗は許されないと言うことだな?」
「はい、国家戦略重要物資の流出という可能性の問題について、綱渡りの状況が続いているのは事実です。そしてその背後に複雑な関係性を持つある犯罪結社が関わってることをつかみました。私は今現在その問題について全身全霊をもって解決に向けて対処しております」
私の返答を皆が真剣な表情で聞いてくれていた。そして全員が静かに頷いてくれる。彼らを代表するようにノストラ議長が言葉を出した。
「やはり意味は我々が見込んだ通りの人物だ。安心したまえ、君を問い詰めようとして呼び出したのではない。君が国家の命運を左右しかねない重要任務に就いていると耳にして、君の真意を確かめる必要があったのだ」
「これはそのための集まりだ」
私は彼らの言葉に真剣に耳を傾けている。その思いが体にも伝わったのは間違いない。
「その上で君にある言葉を送る」
一呼吸おく。静寂に包まれた夜の議会庁舎の片隅でノストラ議長は言葉を絞り出した。
「君は政治的にも非常に危険な立場に立たされている。選択の1つ1つを間違えれば一気に奈落の底に叩き落とされかねないほどの危い立場だ」
「はい」
彼らの言葉に私は肝が冷える思いがした。知識としてそういう状況にあるだろうということは私自身も薄々感づいていた。しかしながらこの政治的にも重要なこの空間の中で、そしてノストラ議長と言う稀代の人物を前にして改めてその恐ろしさが私を襲ってきた。
それをぐっとこらえながら私は彼の言葉に耳を傾けた。
「忘れてはならない。君は自らのお父上君の政治的命脈を君自ら断ち切ったのだ」
「さよう、君のかつてのお父上、デライガ候はあまりに多数の取り巻きを生んでいた」
「それも黒い取り巻きだ。たちの悪い筋との付き合いも深かった」
「君が君の父上を処断するきっかけを作らなかったら、君のご実家であるモーデンハイム家はとんでもない事になっていただろう」
デライガ――、かつてのモーデンハイム家当主であり、私の父だった人物だ。今では失脚して廃嫡処分を受けて精神サナトリウムに強制入院させられている。
そしつ、私はある事実に気付いてそれを口にした。
「かつてのバーゼラル家のようにですか?」
「む? 確か、君の部隊の隊員にはかつてのバーゼラル家の人間がいたのだったな」
「はい、私の部隊の実力者の1人です」
「そうか、これは失礼した。他意はないのだ。許せ」
「御意」
「話を戻そう」
彼らとの会話はさらに進んだ。そして彼らが私を呼び出したその真意をはっきりと明らかにしてくれた。ノストラ議長は告げてくれる。
「君には様々な場所に〝見えない敵〟が居るということを認識しなければならない」
「君のお父上がもたらしていた〝黒く汚れた利益〟――それを未だに忘れられず恨みを抱いている者は少なくないのだ」
「君は狙われているのだよ」
「先日も北の商業都市で手篭めにされかけただろう?」
「運河水路の船の上で襲われた所を間一髪で救われたと聞く」
「心身ともに問題は残らなかっただろうね?」
「はい、無事回復しております」
イベルタルでの一件、彼らにも筒抜けだった。
私は改めて、彼ら賢人議会議員と言う立場の人物たちがいかに優れているかということを認識せざるを得なかった。情報掌握能力は政治家として極めて強力な武器になり得るからだ。
「アレは犯人は君があの〝旋風のルスト〟であると気づいた上で君に屈辱を味合わせるために行った行為でもあるのだ」
「犯人の素性を探っていると君のかつてのお父上君とのつながりが確認された。裏の利権を潰されたことへの恨みがあったと、軍警察の取り調べでわかったそうだ」
「千載一遇の好機と思ったのだろうな」
「図らずも君の優秀なお仲間により阻止されたようだがな」
それらの言葉に、今の自分がいかに危険な立ち位置にあるかを改めて思い知らされる。ただ彼らの質問はまだまだ続いた。
「ちなみに今君は、防諜部の直命を受けて調査活動をしているね?」
「はい」
「どこまで、事実に迫っている?」
厳し声で問い詰められる。鋭い視線が集まる中、答え如何によっては私の立場は難しいものになる。慎重に言葉を選んで私は答えた。
「私が今、調査を行っているのは、最近、北の同盟国のヘルンハイト公国より移籍してきた製鉄工学博士ケンツ・ジムワース教授の身辺調査です」
「それで?」
「現時点でわかっているのは、教授が我が国の最高機密である精術武具/精術器具の心臓部である〝黒い箱〟すなわち〝シルバーケーキ〟の所在と製法について彼方此方に探りを入れていたと言う事実です。そして、どこまでの情報を有しているのか? については全力を挙げて更なる情報収集を行うとともに、ケンツ博士の身柄を掌握。博士の妻子の方々も全力を挙げてその発見との保護に努めております」
「それで? 君自身は?」
「私には、国家機密の内容そのものよりも、ケンツ博士がなぜ? 国家機密である〝黒い箱〟と〝シルバーケーキ〟について知ろうとしているのか? その動機を掴むことのほうが重要です。それに私自身はかつては軍学校時代に特別カリキュラムとして、ドーンフラウ大学にて精術学の真髄を学んでいます。黒い箱の実態とその重要性については嫌と言うほど熟知していています」
そして私は彼らを睨み返して告げた。
「黒い箱の実情が明るみに出れば、この国がひっくり返るであろうということも」
 







