施設裏側強襲突入 ―Ⅳ― 火炎鞭と掌底撃
パックが覚悟を決めたような表情になり、武術家としての礼儀である包拳礼を示す。左の拳を右手のひらで包みながら彼は言った。
「承知しました。お任せください」
「頼むぜ。ダルム爺さんは通路の反対方向から別な奴が来ないか警戒してくれ」
「分かった」
ダルム老もその肩に担いでいた戦鎚を両手で構え直しながら頷く。
「行くぜ」
そう呟くプロアは鞭状武器の鎖牙剣を振り回しながら一気に飛び出していく。
「精術駆動! 爆炎鞭!」
鎖牙剣の根元に組み込んだあの小さなナイフが威力を発揮した。それもまた名のある精術武具なのだ。
【銘:イフリートの牙】
【系統:火精火炎系】
【形式:ナイフ型、火精の力を他の武器に付与する効果機能がある、火精系最強クラス】
イフリートの牙から発せられた火炎が、鎖牙剣の表面をつたって炎の鞭を形作る。それを∞の字に振り回しながら彼は一気に飛び出していく。
対する敵は通路の真ん中に立ちはだかりその両手で大型の銃砲を携えている。左手で砲身の中ほどを掴み、右手で砲尾の方にある握りを掴んでいた。
それもまた見事なまでの威容を誇る精術武具だ。
【銘:ブリギットの乱狂】
【系統:火精地精複合系】
【形式:両手可搬式銃砲型、火弾の連続発射が可能】
それを持っていたのは立派な体格の筋肉質の男だ。その武器の発射反動を支えきる腕力が必要なのだ。
プロアの姿を視認すると彼めがけて火弾を発射する。それをプロアは、自らの炎を吹き上げる鎖牙剣でことごとく弾いていく。プロアの絶技に敵が焦りを抱いたその瞬間だ。
プロアの背後にピタリと張り付くように接近していたパックが突如飛び出していく。
軽身功と呼ばれる技で軽々と跳躍し通路の壁を蹴りながら、銃砲を両手で抱えたその男のすぐ左隣へと一気に飛び込む。そして、両足を広げて踏みしめると右の掌底で下から上へと築き上げる勢いで打撃を食らわせる。
――ドンッ!――
凄まじい衝撃が敵の体を一気に貫く。そして、大砲で弾き飛ばされたかのようにその男は吹っ飛ばされて壁へと叩きつけられた。
男は白目を剥いてそのまま微塵も動かなくなったのだ。
「障害排除成功」
パックが呟くその言葉にプロアが頷く。反対方向を振り向けば、襲ってきた敵構成員に得意の戦鎚で応戦していた。
四人ほどの襲撃者を立て続けに戦鎚で砕いて行く。迫力ある武器とは裏腹にその攻撃は繊細で絶対的急所を確実に仕留めていた。
パックがダルム老に知らせる。
「こちら排除成功です」
「おう、こっちもだ」
だが時間的余裕はない。プロアが告げた。
「急ごう、敵がどこかに逃げ延びているはずだ」
3人はうなずき合いながら、逃走した密輸犯たちを求めて走り出す。
その時、プロアが言った。
「それにしても、ゴアズとはさっきの銃砲男とハチ合わせなかったのかな?」
その疑問にダルム老が答えた。
「さあな。俺たちの後ろに回り込んで出没するのがが時間がかかったか、1人より複数人数で出てきた時を狙ったか」
だがパックはこともなげに言う。
「いずれにせよ死人に口なしです。ゴアズさんならこの程度の攻撃、うまくかわすでしょう」
その言葉に他の二人も妙に納得したのだった。
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