暖かな夕食と突然の念話通信
ダイニングを兼ねたリビングルーム、そのテーブルの上には素敵なお手製の料理が並んでいる。男性らしからぬ、いかにもプロアらしい繊細な仕上がりの料理だった。
「できたぞ、ルスト」
「こっちも準備終わったわよ」
「よしそれじゃ夕食にしょうか」
「ええ」
にこやかに笑いながらテーブルに着く。
用意してあったのはどこかの有名店で買い求めただろう肉厚なローストビーフと、濃厚なクリームスープ、コールスローサラダに、スパイスを効かせたパスタもある。発泡ワインのボトルもありプロアはワインの封を手早く開けた。
心地よい音がして栓が抜ける。グラスにワインが注がれて夕食が始まった。
それぞれにグラスを手にしてグラスを打ち付ける。堅苦しい挨拶は無しだ。
彼が私をねぎらう言葉をかけてくる。
「お疲れさん」
「私よりもあなたの方が疲れたでしょ? 飛行能力のある精術武具は体力消耗激しいから」
「ああ、それよく言われるんだけどな。案外あんまり疲れないんだ。もう長年ずっと使ってるからコツのようなものが身に染み付いてる。少ない消耗で効率よく機能を発揮させられるからな」
「さすがね。ガリレオさんが感心していたわよ。あなたのアキレスの羽根を含めて素晴らしいって」
「そうか?」
「うん。彼言ってたわ、飛行能力のある精術武具って制作するのがものすごく難しいんですって。飛行をするということ自体が体力消耗が激しいのだけど、しかしそれだと長距離の飛行は困難になる。少ない消耗でいかに飛行能力を発揮させるか? そのバランスがものすごく難しいんですって」
私のその説明を聞いて思い当たるところがあったようだ。
「そういえばそうだな。昔は、闇社会の精術武具の地下マーケットにいた時に飛行能力のある精術武具は出品数が非常に少なかった。値段もかなりの額に上り、俺の持っているアキレスの羽根を欲しがるやつも引きも切らなかった」
「でも売らなかったんでしょ?」
「当たり前だ。俺の先祖からずっと継承されてきた遺産だからな」
「そうか。そうなってくるとやっぱり、バロンさんのベンヌの双角みたいに失われた技術なのね」
「そういうことになるな。一度、アキレスの羽根の複製を試みたやつが居たんだ。俺も協力してやったんだがな」
「それで、どうなったの?」
「お前の言うとおり体力消耗と飛行能力のバランスがうまく取れず失敗に終わった。どうやったら実用的な性能を出せるのか? かなり苦労していたよ」
「そうなんだ。でも、もしかするとそのうちガリレオさんもアキレスの羽根の複製再現に挑戦するかもしれないわよ?」
「ああ、その時は協力させてもらうよ」
そんな風に私たちは会話を楽しみながら食事を終えた。
夕食の片付けも彼がやってくれた。それだけでは悪いと思い食後のデザート代わりのケーキを用意しようとしていた時だった。
私の念話装置に入感があった。
「あら?」
「どうした」
「念話、誰かしら?」
私は愛用の念話装置を操作して回線をつなぐ。
『はい、エルストです。どちら様でしょうか』
すると相手は意外な人物だった。
『失礼いたします。こちらフェンデリオル正規軍総本部通信部です。参謀本部相談役ユーダイム様より念話中継が入っております。お繋ぎしてよろしいでしょうか?』
『はいよろしくお願いいたします』
『ではお繋ぎいたします』
驚いたことに念話の相手はユーダイムお爺様で、しかも正規軍の回線経由だった。これはただ事ではない。
『くつろいでいるところすまんな。私だ』
『お爺様!? 何かあったのですか?』
『うむ、今から軍の偽装馬車にて迎えを送る。それに乗りある所へと来るように』
『あるところとは?』
ほんの少し沈黙があったがお爺様はこう答えた。
『来ればわかる』
私もほんの少し思案したが、
『承知いたしました』
『では待っているぞ』
お爺様からの言葉を整理すると、
モーデンハイムの実家に呼び出されるわけではないということ、
モーデンハイムの実家筋には関連のない案件であること、
正規軍が深く関与した案件であるということ、
極めて重要な場所に出頭しなければならないということ、
そして、お爺様も同席なさるということだ。
『それでは後ほど』
『うむ。気をつけてな』
そう言葉をやり取りして念話は終了した。念話装置を操作し終えると私は深くため息をついた。







