ルスト、軍の重鎮たちと語らい合う
私はすかさず立ち上がり彼らに挨拶を交わす。
「おさしぶりです皆様。ご無沙汰しております」
丁寧に頭を下げれば、彼らがにこやかに答えてくれた。
まずはソルシオン元帥、
「大活躍だね。君の輝かしい実績は聞き及んでいるよ。君を軍の切り札として1部隊を与えたのは成功だったようだね」
続いてワイゼム中将、
「そうですな。彼女を見守り続けた我々としても鼻が高い」
そして私を心配するような文言を口にしたのはメイハラ中佐だった。
「ですが、彼女に期待するあまりに無理難題を彼女に押し付けすぎだと思いますが」
ユーダイムお爺様が苦笑しながら問い返す。
「やはり君もそう思うかね?」
メイハラ中佐も言葉を選びながら答えてくれた。
「ええ、人事部門に籍を置く身としては、彼女の勤務状況は手に取るように分かりますので、いかに彼女に周りが頼り切っているのか分かろうというものです」
メイハラ中佐は正規軍の人事院上級事務管理を勤めている。軍の中の人の動きは極めて精通している。そこにソルシオン元帥閣下が言葉が添えてくれた。
「その辺は私も折に触れて注意を払うようにしている。各部門の重職たちに対してエルスト特級と彼女が率いているイリーザ部隊を〝ゴミ処理係〟にしてはならないとね。そのためあまりにくだらない案件に関しては却下するように皆が考えてくれている」
ワイゼム中将が頷く。
「おっしゃる通りです。今はまだ彼女の力を見守り育てる段階です。期待をすることと依存することはまったく別のものです」
そしてその言葉にユーダイムお爺様が頷いてくれた。
「全くもってその通りだな。あまりに忙しすぎるのでルストの母親がなかなか娘に会えないと愚痴をこぼしておった。まぁ、周囲にはおくびにも出さんがな」
その言葉に私は思わず驚いてしまった。
「えっ? お母様そんなことをおっしゃっていたんですか?」
思わず私が狼狽える姿を見てメイハラ中佐がたしなめるように言ってくれた。
「ユーダイム候、うかつですよ? 孫娘さんに要らぬ心配を与えてはいけませんよ」
「これは失敬」
私たちは思わず声を上げて笑いあってしまう。それを機会と捉えて私は本題を切り出した。
「お気遣いありがとうございます。実は、時に皆様にお話ししておきたいことがあるんです」
場の空気を変えるように真剣な表情で語り始めた私に皆の視線が集中した。ワイゼム中将が問い返してくる。
「話とは?」
「はい、今後起きるであろう大きな騒動とそれの後処理に伴う重要任務についてです」
ユーダイムお爺様が尋ねてくる。
「大きな騒動? どういう物なのだね?」
「はい、北部商業都市イベルタルを襲うであろう騒乱です。現在のイベルタルにおいて外来闇社会組織の〝黒鎖〟が猛威を振るっているのはご存知だと思います。これに対して私自身の生命の危険をきっかけとしてイベルタルにて活動する様々な組織や団体が連携を組んで、黒鎖の撲滅作戦を実行に移すことになったのです」
そこにワイゼム中将が私見を加えた。
「イベルタルは極めて高度な都市自治が認められています。それゆえに我々正規軍としても迂闊に介入できない。あの都市における黒鎖問題は我々としても長年にわたる懸案事項でした」
「はい。おっしゃる通りです。ですが、今回の対黒鎖の制圧戦線を構築するにあたって都市自治会議の重要人物であるシュウ・ヴェリタス女史から、協力いただけるのであればこれほど嬉しいことはないとのお言葉をいただいております」
ソルシオン元帥が頷いてくれた。
「そうだな。彼らと我々、共に手を携えて協力し合うことができればより大きな問題解決も容易になるだろう」
「ありがとうございます閣下、もし何かあれば正規軍の支援部隊の出動とその支援をお願いしたいのです」
私がそう尋ねれば、元帥はすでに仔細を把握しているようだった。
「その件についてはイベルタル駐留の都市治安維持部隊の司令部から報告が上がっている。支援行動については約束しよう」
私が提示する問題は次の話題へと移った。







