科学探究院《スティエンツ・エスプロレーヨ》
そして私は次の行動の指示を下した。
「ドルスさんとダルムさんは私の隠れ家で待機願います。軍警察から何か依頼があれば対応お願い致します」
その言葉にダルムさんがうなずいた。
「わかった。何かあれば連絡しよう」
「お願い致します。私はプロアととある政府機関に顔出しますので。そちらが終わればカークさんたちに合流しようと思います」
「それじゃ連絡を待ってるぜ」
「えぇ、後ほど」
その言葉を残して私たちは辻馬車を2台拾い二手に分かれたのだった。
私は馬車上から念話装置である人物へと連絡をした。クリスタル仕上げのあの念話装置を取りだすと表面をタッチして操作する。
【registro】
画面に念話装置番号のリストが表示される。そして、その中の一つを選び出す。
【ガリレオ・ジョクラトル】
その名前をタッチしてさらにコマンドを操作する。
【elsend】
かすかな発信信号音のあとに先方との念話回線が繋がれた。
『はい、こちらガリレオ』
『ルストです。今からサロンにお伺いしようと思います』
私がかけた相手は千年思考のガリレオだった。彼に頼んでいた物があったのだ。だが彼は言う。
『いや、サロンはやめよう。他の連中も気を使うしな。僕の工房に来てくれないか?』
『ガリレオ卿の工房ですか?』
『あぁ、覚えてるだろう?』
『はい、存じてます』
『それはよかった。そういえば先程同行していた彼は?』
『居ります』
『ならば、都合がいい。彼にも頼みたいことがあるからね』
『わかりました。それでは速やかに』
『あぁ、待っているよ』
『それでは後ほど』
念話通信を終えて私は馭者席につながる小窓を開ける。
「目的地を変えて、オルレア北部の工業地帯に向かって頂戴」
すると若い馭者が問い返してきた。
「北部工業地帯ですか? どのあたりで?」
工業地帯と言ってもそのエリアは広い。そして、様々に区分されている。
「カルバート工業地帯の南東部、バルカナル地区へ」
「バルカナル――技術者の殿堂ですね? わかりました」
馬車が進路を変える。オルレアの商業流通地区と隣接している工業地帯に向かったのだ。その工業地帯を元々のち名から、カルバート工業地帯と呼んでいる。そして、その中でも技術研究機関が密集している地域がある。
プロアが私に問いかけてくる。
「バルカナル、オルレアの工業技術の最高峰じゃないか」
「えぇ、そしてその中でも最大の重鎮と言われているのが〝彼〟よ」
「千年思考のあいつか」
「えぇ」
そして馬車に乗ること小半時が過ぎる。馬車はカルバート工業地帯でも一番、都市中心に近いエリアへと差し掛かる。技術者の殿堂と呼ばれるバルカナル地区だ。馬車の馭者席との小窓が空いた。
「お客さん、バルカナルですよ? ここからどこへ?」
私はその問いかけにこう答えた。
「科学探究院、そう言えば分かるかしら?」
「まさか〝あの無人の館〟ですか?」
「えぇ、あそこに用があるの」
「わ、わかりました」
――科学探究院――
その名前を出しただけで馭者の彼の慌てようは笑えるほどだった。だが、それも最もな話だった。バルカナル地区の中央に向かうと、四方を白亜の外壁で囲まれた白塗りの真四角の館がそびえ立っている。館と外壁の間は木々が生い茂っているが、いかなる仕掛けなのか木々の間からは館本体は霧に閉ざされたかのようにその姿を捉えられない。当然ながら、人影は一つも見えなかった。まさに無人の館にしか見えないのだ。
その正面入口、無機質な人工素材のような門扉がそびえ立つ中、馬車が近づくと無音でそれは左右へとスライドして開いた。その向こうは周囲を樹木で生け垣のように遮った正面広場であり、そこで馬車から降りるように告げているかのようだ。
私は馬車から降りると馭者に料金を多めに渡して速やかに帰ってもらう。そして、入り口の門扉が再び音もなく閉ざされると驚くような光景が始まった。
「ここは?」
「千年思考のガリレオさんの活動拠点よ」
「ここが?!」
「ええ、彼の持つ精術技術の粋が詰め込まれているわ。中で何が起きているのか完璧にカモフラージュがされていて人の気配が外側からは全く感じられないので〝無人の館〟なんてあだ名されているのよ」
「そういうことか」
私の説明にプロアは納得してくれているようだった。







