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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第9話:ドーンフラウ大学にて ―ハリアー教授とケンツ博士―
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ドーンフラウ大学・精術研究心臓部 ―禁断の鍵―

 大学施設の教授陣のための敷地は大別して2つに分かれる。研究者の執務室区域と研究施設区域だ。この2つは明確に仕切られていて、特に研究施設区域は、その研究施設の重要度に応じて複数の扉を通過しなければならない。

 しかしだ、


「ケンツ博士は全くのノーチェックのようだな」


 ハリアー教授もその点を疑問視していた。


「おそらく、賄賂でも受け取ってるのでしょう。あるいは言葉巧みに黙認するように言い含められたか」

「目的のためには手段を選ばないようだな。研究施設区画はこっちだ!」

「はい!」


 私はハリアー教授の案内で精術研究の研究施設区画に直行した。

 その、研究施設区画の入り口では私の仲間のドルスとダルム老が私を待っていた。


「ルスト」

「ルスト隊長」

「2人ともご苦労様です。それで博士は?」


 その問いかけにドルスが答えた。


「すでにこの中に入っていった。まるで勝手知ってるかのようだったぜ」

「彼も製鉄工学の研究者だから入室する資格はあるのはわかるけど、今このタイミングというのがあまりにも不自然だわ」


 私たちはハリアー教授を先頭に歩き出した。研究施設からの入り口には1名の警護役が控えていたが全く役目を成していなかった。教授は彼を叱責する。


「おい! これはどういうことだ!?」

「は、ハリアー学長教授?」

「今この中に、研究施設使用禁止処分がくだされているケンツ博士が入室しているそうだな?」

「は、はい」

「なぜ入室を認めた!」

「そっそれは、忘れ物をしたとかで」


 慌てて取り繕うかのように言い訳を口にするが到底納得できる自由ではなかった。


「それならばなおさら私の方に連絡があってしかるべきだったな!」


 その時の警護役の彼の表情は焦りに満ちていた。


「職務怠慢だな! 後ほど詳しい尋問を受けてもらうぞ! ルスト君、行こう!」

「はい!」


 ケンツ博士を黙認していた警護役をダルム老に任せるとさらに内部へと足を踏み入れる。その途中2箇所の確認扉を通過するが、そのいずれもがケンツ博士に対する判断は極めて甘いものだった。


「おそらく、前学長の頃から特別扱いが蔓延していたのだろうな。それがここにきて悪い形で影響を及ぼしてしまっている」

「先生――」

「私のミスだ、もっと早くこういう部分にも手をつけるべきだった」


 それは学校の改革に力を入れているハリアー先生の心からの悔恨の言葉だった。そのことを嘆く暇もなく私たちは研究施設区画の心臓部へと到達しようとしていた。


 そしていよいよ私たちが到達したのは、ドーンフラウ大学の最重要研究施設区画である精術研究・素材開発区画だ。そしてここには精術研究に必要な重要素材であるミスリル物質の保管所が設けられているのだ。

 そこはセキュリティゲートを兼ねた内部守衛室があり、24時間体制で待機している警備員が居るはずだった。だがその時、守衛役は眠りこけていた。厳重な入口ゲートの前にガラス貼りの守衛室があり、その中のテーブル席に腰掛けてティーカップを手にしているようだったが、カップをテーブルの上に落として転がした状態で前のめりに倒れていた。


「コレは? 睡眠薬で眠らされている?」


 私の呟きにプロアが言う。


「用意周到だな」

「おそらくこれは以前にもやっていたかもしれませんね」


 とてつもなく嫌な予感がする。ケンツ博士をめぐる状況は極めて悪化していたのだ。それでも私たちは中へと入る。

 するとそこで見つけたのは、特別な許可なく入ることが許されないはずの〝特別閉鎖区画〟に入ろうとするケンツ博士の姿だったのだ。

 ボタンシャツとネッカチーフとダブルボタンベストにスペンサージャケットコートと言う出で立ちで立ちすくんでいる。ヘルンハイト人らしいブロンド髪が見える。ケンツ博士は、私たちを尻目に合鍵を使い閉鎖区画の中に入ろうとしていた。


「何をしているんですか」


 私の声が響く。博士は怯えた表情で私たちの方をを振り向いた。

 私たちの出現に博士は驚愕の表情のまま声も出せずに固まっている。だが私の声が流れるように出てきた。


「何をしているんですか? それは絶対にやってはならないことです! あなたが今やっているのはこの国を絶対的な窮地に追い込むものです! ケンツ博士!」


 私の声が特別閉鎖区画の入り口で響いていた。それを耳にしているはずのケンツ博士の表情は見る影もなく憔悴しきっていた。明らかに追い詰められていたのだ。


「た、頼む。見逃してくれ――」


 月並みな定番のセリフ。だが、プロアもケンツ博士に問いかけた。


「なぜだ? なぜリスクを犯してこの国の国家機密に手を出す?」

「早く、早くしないと妻と娘が――」


 絶望が垣間見えるその表情と言葉に私はさらに問いかけた。

 

「奥さんと娘さんが監視下状態にあるのですね?」

「――!」


 無言、しかしあきらかな驚愕の表情。これは間違いなく真実を言い当てている。私はさらに説得する。


「今なら間に合います。私の配下の者があなたの奥さんと娘さんを救出するために動いています。あなたはその扉の鍵を元の場所に戻してください。そうすればあなたはまだやり直せます!」


 扉を開けようとする手が震えるケンツ博士だったが、いまだその鍵から手を離すようなことはなかった。見るに見かねたハリアー教授がさらに問いかけた。


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