施設裏側強襲突入 ―Ⅱ― 開かれた隠し扉
「隊長」
背後から声をかけてきたのはゴアズだった。
「どうしました ? ガルゴアズ1級」
「すいません。表に待機しているダルカークと一緒に別行動を取らせてください」
突然の言葉に疑問を持つ前にその言葉の理由を即座に判断した。
彼の持つ能力の特性から何かを感じたのだろう。
「何か見つけたようですね」
彼を信頼することにした。
「いいでしょう。別行動を承認します」
「ありがとうございます。それでは」
その言葉を残して彼は去っていった。
私は残った仲間達に言う。
「地下階へと突入します」
注意をうながして一気に進む。幅の広い階段を真っ直ぐに降りていけばその先に大きな空間が広がっていた。
そこはまさに隠し倉庫室。
表沙汰にできない物資や不正蓄財を溜め込むための場所だ。その痕跡が打ち捨てられた木製の箱に現れている。
その空間の壁際にはめ込み式のガス灯が灯っていて内部は思いのほか明るい。
目を凝らしたが地下階空間には誰もいなかった。事前探知では居たはずの10名以上の人員はどこにも見られない。
地下階フロアの壁には複数の扉が存在していた。
その一つが開いているのに気づいた。そして、地下階フロアにはたった一人だけ、若い女性が意味ありげに皮肉そうな表情を浮かべてわたしたちを眺めている。
頭からすっぽりとフード付きのロングのマントを羽織っている。最初はその姿はその中に隠されて素性がよくわからなかったが、彼女はそれを一気に脱ぎ落とす。
――スルッ、ドサッ――
マントの中から現れたのは髪を赤く染めたしっかりとした体格の若い女性だ。
革製の胴鎧を身に着け、両手両足は露出している。
両足には太ももの中ほどまでの長さのサイハイブーツを履いている。
そして両手には両肘までの長さの大きな篭手がはめられている。
私と比較して拳2つ分くらいは背丈は大きいだろう。
その女性はニヤリと笑うと、その両腕の篭手を意味ありげに前方へとかざした。
「あれは!?」
私はその篭手に、いや、その〝篭手型の精術武具〟に見覚えがあった。
あれは名のある銘入りの精術武具だ。
「スカラベの衝撃!」
かつて大学の精術学の研究室で見た精術武具名鑑に記されていた武器だ。そしてその危険性も!
「全員退避! 急いで!」
私に同行して地下階に降りてきていた3人の仲間は、私の叫びと同時に踵を返して戻って行く。その3人の中の一人、黒髪の東方人の隊員が私に問いかけてきた。
「隊長は?」
「私はここで応戦します! 皆さんはここから逃走した組織構成員を探し出し捕らえてください!」
「心得ました! ご武運を!」
その言葉を残して彼らは去っていく。
だが、それを許さぬかのように、赤い髪の女は精術武具の聖句を詠唱する。
「精術駆動! 甲虫飛弾!」
彼女の両手にはめた巨大な籠手の表面には、黒光りする甲虫のようなものがびっしりと並んでいる。それが複数一斉に発射されたように飛び出してくる。
それはまるで自らの意思を持っているかのように、狙い定めて私や私の部下たちに襲い掛かってくる。
だがそれを許す私ではない。
「精術駆動! 仮装障壁!」
手にしていたステッキハンマー型の精術武具を縦に両手で構えて精術を発動させる。
発生したのは重力力場で構成された目に見えない壁だ。
敵は撃ち放った黒い甲虫の群れを弾き飛ばすようにその攻撃を阻止する。
なんとか仲間たちへの攻撃を阻止したことで、敵は舌打ちをしていた。
「チィッ! 余計な真似を!」
そう言いつつも彼女は戦意に満ちていた。私を倒して状況を逆転させる意思に満ちていた。
だが、私は彼女に言った。
「それは私のセリフです。あなたに退路はありません。おとなしく投降しなさい」
私は右手に自らの持つ精術武具を握りしめて眼前へと掲げる。
「ここがあなたの帰還不能点、そして、あなたの生命を保証できる限界点です!」
私の言葉を彼女が鼻で笑った。
「ふん、死ぬのはあんただよ!」
そう叫びながら彼女は飛び出してきた。話し合いは無駄だ。私は全てを覚悟して立ち向かう決意をすると、威嚇を込めて彼女へと叫んだ。
「そのお言葉、そっくりお返しいたします!」
彼女と私、決戦が始まろうとしていた。
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