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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第8話:国家英雄特別サロン〝英雄の理想郷《ヘローオ エリーゼオ》〟
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特級傭兵全員揃う ―アルデバランとモロネブ―

 ドリアンさんが真剣な表情で訪ねてくる。


「心理的に逆らえない縛りとは?」

「刺青を彫るんです。頭の髪の毛を剃って頭部の地肌にじかに彫ります。髪の毛が生えてくれば露見することはありませんが、された人間にとってはとてつもない重荷になります。そして潜伏して長い年月が経って忘れた頃に、脅迫が届くんです。生みの親の居所と女性の小指とともに」


 私の言葉が皆に聞こえた時、誰もが驚いたような表情をしていた。私が告げた事実が何を意味してるのか即座に理解してくれた。

 マイノーアさんが嫌悪感をにじませながらつぶやく。


『それってつまり、断れば小指だけでは済まないって意味ですよね』

「はい、そういうことです。でも、潜伏者に仕立て上げられたその人は本来自分が何の役目を負わされているのか知らずにその場に居ます。そして、脅迫と共に情報漏洩に加担させられ、猛烈に悩むことになります。言うことを聞いて育ててくれた勤め先の信頼を裏切るか、現在の居場所を守って生みの親の命を見殺しにするか――」


 マイノーアの従者のモモエルが辛そうに言葉を漏らす。


「ひどい。それじゃどっちを選んでも一生苦しむじゃないですか」

「そうよ、私の居場所を漏洩させたその潜伏者の女性も泣きながら自分の罪を謝罪していたわ。

 実はこれに続きがあって、送られてきた指は男性の老人のものだった。しかも母親の居場所とされていたものは全くのデタラメ。根拠のない情報に踊らされて恩人の情報を漏らしてしまったんです。結果心を病んでしまい今は完全に塞ぎ混んでます。ひどい話です」


 ハンニバルが忌々しげにつぶやく。


「一度だけの使い捨ての潜伏者か。しかも本人も役割を認識していないから事前には絶対にバレない。やり方としてはうまいやり方だが、到底許されるものではないな」


 その時、サロンルームの中に新たに2人の人影が入ってきた。

 1人は木綿地のボタンシャツに革製のマントコートにレザーのチョッキベスト、革ズボンにショートブーツと言う出で立ちだ。襟元にはクラヴァットではなく丈夫そうな仕立ての厚手のスカーフをネッカチーフのように巻いている。

 もう1人はフェンデリオルの上流階級の紳士としては定番とも言える、テールコートにベストにルタンゴトコート姿、襟元にはクラヴァットを巻き、革製のシューズを履いている。頭にかぶっていたトリコルヌ(三角帽)を小脇に抱えている。

 2人とも着こなしは見事で、かたや歴戦の猛者で一流の戦士、かたや筋金入りのこの国の上流階級の候族男性だった。

 革製のマントコートを羽織っているその男性は右腰に大振りな牙剣をたばさんでいる。もう1人の男性はシルクの手袋に大理石の頭が設けられたステッキを握りしめていた。

 

 その片方のマントコート姿の長い髪の屈強な体の威丈夫が私たちに告げた。


「そいつは東方人社会では古い時代からある潜入者を育てるための技法で〝蜜蜂(ミィフォン)〟ってやつさ」


 声の主の名前は私は呼んだ。


「アルデバラン様!」


 私がその人の名前を呼べばにこやかに笑いながら彼は答えた。


「よぉ! 久しぶりだなルスト」

「はい! おさしぶりです」


 挨拶もそこそこに彼は言葉を続けた。


「海の向こうの他の国でかなり古い時代から存在する潜伏者の養成方法の一つでな、これをやるように飼育された本人は大抵が悲惨な末路を辿る。そもそもミツバチは一度針を刺してしまうと抜くことができない。無理に針を引き抜けば体の一部がちぎれて針を相手の体に残す。そこから絶対に助かることのない一度限りの存在という意味で蜜蜂の名前がついたんだ」


 私は彼に尋ねた。


「それじゃ完全な使い捨てってわけですか?」

「ああ、組織にとって重要な情報をひとつだけ確実に手に入れればいいからな」


 そう答えながら彼は自分の席に腰を下ろした。視界の中にプロアと言う見慣れぬ人物の姿を見て彼は言った。


「見慣れない顔だな。誰かのツレか?」


 その言葉にプロアは立ち上がり自ら名乗る。


「旋風のルストの部隊の者でルプロア・バーカックと申します」

「アルデバラン・ギルカだ。よろしくな」


 やや無作法とも言える乱暴な物言いだったが、その思い切りの良さは言葉の端々から滲み出ている。

 するともう1人のルタンゴトコート姿の彼が言葉を添えた。


「彼の2つ名は〝千人斬りのアルデバラン〟 戦場に立つものなら一度はその名前を耳にしたことがあるはずだ」


 そう言いながら彼はプロアの傍らに立つと右手を差し出してきた。


「ようこそ、特級傭兵の殿堂へ。特級傭兵が1人、モロネブ・ルイ・オルトガルと申す。2つ名は〝満漢飽食のモロネブ〟だ。プロア殿と申されたな? お見知りおきを」

「よろしくお願いいたします」

「うむ」

 

 握手を交わし終えるとモロネブも席に着いた。これである1人を除いて全員が揃ったことになる。



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