マイノーアとガリレオ、その身の上話
私たち4人はあらたえて握手をしあった。マイノーアは体の自由が効かないので手を差し出しては来なかったが、私とプロアがその手をそっととって握手をする。
『ありがとう、よろしくね』
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」
彼女の声が私たちの脳裏に響いてくる。ただ、強制的に刷り込まれるような不快感はない。しかし、プロアにはどうしても聞いておきたい疑問があったようだ。
「申し訳ありませんが、失礼を承知で尋ねさせていただきます」
『あら? なにかしら?』
「マイノーア特級、それほどの技術を身につけるのにご苦労はなさらなかったのですか?」
プロアがそう問えば、彼女は苦笑した。
『確かに、念話装置で言葉や映像を認識し始めたときはなれるまで苦労したけど、1歳で念話装置との適性がわかってそれからずっとだから、すごい苦労をしたという思いはないのよ』
「1歳からですか?」
『えぇ、だって、空を飛ぶ鳥が羽ばたきが辛いなどと思うかしら? 土の下に生きるモグラが穴を掘ることを苦と思うかしら? 私にとってはこれが当然だったから。むしろ、人との違いを知ったときのほうが辛かったわね』
人との違い――肉体的にハンデを負っている人がかならず通過する問題だった。
『私は普通の人ができないことができない――それを心で受け入れて、自分の中で昇華するのにものすごく自問自答したわ。でもそれを変えてくれたのが〝彼〟なの』
マイノーアの言う彼とはすぐ隣りにいるガリレオだった。
「ガリレオさん? 彼が?」
『えぇ、私の念話装置の適正とその可能性を見極めて訓練してくれたんです。そして人には真似できない念話能力を開花させてくれた。それからずっと何があっても彼は助けてくれた。そして私の今があるんです』
その言葉にガリレオは流石に照れくさそうだった。
「僕はそこまで大それた事をしたとは思っていないよ。ただ、自分の持つ科学技術が彼女の可能性を切り開けるならと思って夢中になってただけさ。もっとも、彼女の能力がここまで拡大したのは想定外だったけどね」
『えぇ、そうね。最近では国の外の事まで見える時があるから』
さらりと言ってのけているけど、実はそれってものすごい事だ。事実を知っている私とは違い、プロアは驚愕の表情を浮かべている。
「国の外? 外国ですか?」
『えぇ、たまに非合法に使われている念話装置の存在に気づくことがあるの。私が〝国家〟と関わるようになったのはそれがきっかけなのよ』
彼女がそこまで話したところでガリレオが言う。
「立ち話も失礼だ、そろそろ移動しないか?」
彼の言葉に私は同意する。
「えぇ、そうですね。皆さんお待ちでしょうから」
「皆さん? 他にもいらっしゃるんですか?」
プロアの再びの疑問の声にガリレオとマイノーアが答える。
「あぁ、来てるよ。言ってみればここは〝特級傭兵のたまり場〟だからね」
たまり場――その言葉のニュアンスが絶妙にマッチしているように私には思う。
『皆さん、ルストさんがいらっしゃるのを楽しみにしてらっしゃってましたから』
マイノーアさんのその言葉に私は思わず微笑んだ。
「そこまで思っていただいて光栄です」
『ふふ、それじゃ参りましょうか』
「はい、そうですね」
するとマイノーアの侍女の少女が私達の会話から状況を察知して、マイノーアの車椅子の背後に回る。
『お願いねモモエル』
「はい、お嬢様」
私より小柄で身長は4ファルド少し(約130センチ)くらいだろう。スリムなルックスだが侍女用ドレスの袖から覗く手首は見た目に反してガッチリしている。案外に力持ちなのだ。
『彼女の名前はモモエルと言うの。モモエル、ルプロアさんにご挨拶を』
「はい、お嬢様」
モモエルはマイノーアに促されてプロアの方へと振り向いた。そして挨拶の口上を述べながら頭を下げてくる。
「マイノーア様お付きの専属侍女をしております。モモエル・アーカウッドです。お見知りおきを」
「よろしく、ルプロア・バーカックだ」
「はい」
二人のやり取りのあとにガリレオが言った。
「それじゃ行こうか」
そして私たちは、私を待っているという特級傭兵の皆のもとへと向かったのだった。







