4人での朝食と、ルストとプロアの親密な仕草
そしてその翌朝――
「えぇ? な、なんであんな夢を見るのよ」
私は思わずそうぼそりと呟いた。
「いくら男の人が同じ屋根の下で寝てるからって、妄想にしても限度ってものがあるでしょ……やだもう恥ずかしい!」
私は真っ赤になって両手で顔を覆った。気持ちが収まるまでそのままでいるしかなかった。幸いにしてメイラが居ないので根掘り葉掘り確かめられることはないだろう。とりあえず余計なことはしゃべらず黙っていよう。
(ちなみにどんな夢を見たのかは、ここでは秘密にしておく)
深呼吸をしながら数分間そのままにしていたが、なんとか気持ちは治ってくれたようだ。
「でも、これはどうしよう」
それとは別に困った問題が起きていた。ベットの上のある場所にはちょっと説明に困るシミが出来ていたのだ。
「とりあえず、プロアが目を覚ます前にシーツだけ取り換えておこう」
リネン類のしまってある場所は覚えている。新しいシーツに交換する事にする。バレたらそれはそれでその時だ。ちなみに昨夜、私がどんな夢を見たのかは内緒にしておく。
室内着のスモックに着替えて、脱いだネグリジェと下着と昨夜のシーツを地下階のランドリーに片付けておく。そして洗面所で顔と髪の手入れをしてエプロンを身に着けて朝食を作る。
ベーコンとキャロットと玉ねぎのコンソメスープに、マッシュルームとオニオンの入ったスクランブルエッグ。ライ麦パンは適度な大きさに切ってかごに山盛りにする。それからそれぞれの好みに応じて5種類のチーズを盛り合わせた。
カマンベール、チェダー、フェタ、あと、癖があるけど、意外と美味しいゴルゴンゾーラとか、パンへの添え物としてクリームチーズも用意する。そしてお湯を沸かして茶の準備をする。
リビングのテーブルに新しいテーブルクロスを敷いてランチマットと食器を並べる。料理を所定の場所に置いて準備を終える。スープはキッチンで温めてある。
準備を終えてエプロンを外す頃にはプロアが3階から降りてくる。
「おはよう、プロア」
「ああ、おはよう」
「朝食できてるわ」
「ありがとう。ドルスたちは?」
「まだ来てないわ。でもそろそろでしょうけど」
ちょうど時間を同じくして玄関ドアがノックされる。1階玄関で出迎えれば、やって来たのはドルスとダルムさんだった。
「よう」
「おはようさん」
「おはようございます。さ、中に入って」
「ああ、すまないな」
「失礼するぜ」
そして2人をリビングへと招いてプロアを交えて4人、朝食を始めた。
用意したのは、ライ麦パンとベーコンとオニオンとキャロットのコンソメスープに、マッシュルームとオニオンの入ったスクランブルエッグ。作り置きのピクルスにカットしたチーズ、そして定番の黒茶と言うメニュー内容。
「さ、食べて」
そして4人での朝食が始まったのだった。
軽く会話を重ねながら朝食をとる。他愛のない日常会話だ。言葉が進むと同時に食も進む。出された食事を皆で食べ終えると、食器を片付けてリビングでテーブルを囲みながら打ち合わせを始めた。
「それじゃ今日の予定は、ドルスたちはケンツ博士の所在確認をお願いね。何かあったら知らせて」
「わかった」
「私はプロアと一緒に必要なところを回るわ。プロアはそれに付いて来てね」
「ああ」
「それじゃあ早速行動しましょう!」
「了解!」
彼らからの威勢のいい声がする。割り振られた任務へと戻るドルスたちを見送り、私はいつもの傭兵装束一式を身につける。その間にプロアは食器を洗い終えてリビングも片付けてくれていた。
「ありがとう、悪いわね」
「気にすんな、これでも台所仕事は一通りできるからな」
「じゃあ今日の夕食はお願いしようかしら?」
「いいぜ? 作ってやっても」
「本当!?」
「ああ、任せろ」
「嬉しい! 楽しみにしてるわね」
「ああ」
そんなふうに言葉を交し合うと、またあのチークを交わす。今度は私の方から顔を近づけていった。
イベルタルでの拉致事件で助けられて以来、私の心の中に彼が強く根をおろしていた。今度のチークは少し長めに彼の体の温もりをじっくり堪能していた。すると――
「ルスト」
「きゃ?」
プロアがふいに私と体強く抱きしめてきた。彼が普段から愛用しているハッカパイプの香ばしい香りがする。
「一応これでも俺も男なんだぜ?」
「うん、分かってる」
「あんまり挑発するとどうなるとおもう?」
「どうなるの?」
彼のそのたくましい腕には今までにも何度も助けてもらっている。そう、彼は男なのだ。
「これでも一線を超えないように自分を抑えてるんだぜ?」
「あらそう? じゃあもう少し頑張ってもらおうかな?」
「ひでえな、襲っちまうぞ!」
そう言われて少しの沈黙の後で。
「あなたなら襲ってもらってもいいかな。もう、私の体は全部あなたに見られてるし」
「拉致の船の中のことか?」
絶体絶命の状態でほとんど薄布一枚の姿にされていた。そのあと、水路に飛び込んだので服など着ていないと同じだった。そんな私の有様を知っている男性は彼一人なのだ。でも、だからこそだ。
「うん、あの時は本当にありがとうね。あの時ほど恐ろしかった事はなかった。もう絶対ダメだと思っていた」
あの時の心細さが私の中に蘇る。思わず体が震えてくる。絶体絶命の状況で集団で襲われるということが、あれほどまでに恐ろしいのだと女の身の上である私には思わざるを得ないのだ。







