ルストの隠れ家と、プロアを泊める件について
私は専用チャーター船でイベルタルからオルレアに向かった。
来るときとは異なり女である私と男3人での船旅になる。
オルレアまでは一泊の船旅だが、夜寝る時はカーテンが引かれて私の所だけ区切ってもらえた。こういうところだけは配慮してもらえるとやっぱりホッとする。
みんなでテーブルを囲んで食事をする。揺れる船の中なのであまり凝った料理は出てこなかったが、パン食とスープを中心に飽きのこないメニューが続く。
翌日の昼過ぎ、私たちはオルレア中心地近郊のマティチエ発着場にたどり着いた。船から降りると仲間たちに声をかける。
「皆さんお疲れ様です。これからですけどよかったら宿を用意しますけど?」
するとまずはプロア、
「例の隠れ家だろう? いいぜ厄介になる」
そして残り2人、ダルム老とドルスは少し違った。ドルスが告げる。
「いや、俺とじいさんは遠慮するわ。隊長の隠れ家のすぐ近くに俺も隠れ家を用意してるんだ」
「えっ? そうなんですか?」
「ああ、隊長の家の近くに〝ハーロ〟って高級飲み屋があるだろう? その裏手だ」
「それじゃあ」
私はある提案をする。
「明日の朝、私のところで朝食にしましょう。そこで明日からの行動について打ち合わせるわ。それと今日の夜はそのお店で4人でってどう?」
「いいんじゃないか」とドルス
「わかった」とダルム
そしてもう1人、
「それでいいと思うぜ」とプロアが後押ししてくれる。
「それじゃあ、それぞれの宿に行ってひと休憩してから、夜にお店の方に向かうわ」
そう告げて私たちは別れる。そこからは慌ただしい数日間の始まりだった。
「行きましょう」
「ああ」
私とプロアは、私の隠れ家へと向かったのだった。
† † †
隠れ家へと直行して所持品を整理して、再び指定された店へ向かう。
表通りに面した地上2階建てのガラス張りの窓が印象的な綺麗な店だった。ドルスの好みらしく、ブリスト料理とビールが売りのパブスタイルの店で賑やかな雰囲気が印象的だった。
人目を避けれるように、店の奥のコンパートメントシートに場所をとると、ビールのジョッキを傾けながら話に花を咲かせての夕食の時間。久々に楽しい夕食の時間となった。
そしてほろ酔い気分で隠れ家に戻る。
プロアにお風呂のお湯溜めをお願いしつつ、わたしは常用している雑貨店に朝食の材料を念話装置ごしにお願いする。
『ライ麦パンと卵、マッシュルームにオニオン、チーズを数種類取り混ぜて、それから缶入りスープをひとつ』
『承知いたしました、明日の朝にお届け致します』
『お願いね』
注文を終えて2階のリビングで待機していればお風呂の準備を終えたプロアが戻ってきた。
「準備できたぜ」
「ありがとう。先に入る?」
「いや、こういうのは女が先だよ」
「悪いわね。お茶入れといたからゆっくり休んでて」
「ああ」
彼に断りながら先にお風呂を頂く。今日はメイラが居ないので基本全て自分でやらなければならない。寝巻きのネグリジェと下着を用意すると、それらを小さいカゴに入れて地下階のお風呂に向かうとお風呂の中に体を沈めた。
一通り体を洗って体を温め終え、清潔なタオルで体を丁寧に拭く。そして下着とネグリジェを身につけ頭にナイトキャップをかぶり寝支度を済ませると2階へ向かう。
リビングでプロアにお風呂を勧め、彼のために用意したゲストルームを案内してその日は全てを終えた。
「それじゃあお疲れ様」
「ああ、ルストもな」
そう言葉を言い終えると彼とチークを交わす。チークは顔を近づけてお互いの頬と頬を触れ合わせる独特の仕草だ。お互いの愛情の気持ちを交わし合う定番の挨拶だ。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
私は今更ながらに1つの家の屋根の下で男の人と2人きりなのだと思わざるを得ない。自分の寝室に入り入り口の扉は閉める。そしてそそくさと自分のベッドの中へと潜り込む。
そこで初めて私はいつもより心臓が大きくなっているのを肌で感じた。
チークのときの温もりに思わず体が熱くなっていたのだ。そして、さらに不思議な感覚があった。胸の奥が暖かく、そして、燃えるような感覚、でもそれはさらなる温もりを求めているような気がする。今、温もりを与えてくれる人といえば、それはプロア――
「プロアと一緒のベッドで――ううん! それだけは絶対ダメ!」
なぜか彼ともっと距離を縮めたいと思っている自分がいた。でもさすがにそれはマズイ。後で周囲にばれた時に何を言われるか分からない。いつかやられたように徹底した身体検査になりかねない。
「まずかったかしら? 男の人を泊めたの」
ベッドの中でそんなことを口にする。でも今更ながらに他に行けとは言えない。ここはこのままおとなしくしているのが得策だろう。
「寝よう、明日の朝は早いし」
明日は4人分の朝食を作らなければならない。そう考えながら私は眠りに落ちていった。







