施設裏側強襲突入 ―Ⅰ― 音の調べと咎人の鼓動
ドルスが施設正面から着実に〝圧力〟を加え続けている頃、施設の裏側で私と、残る仲間たちは敵の次なる動きを読み取ろうとしていた。
その役目は双剣使いのゴアズが担うことになる。
「ガルゴアズ1級、お願いします」
「了解、心拍探知開始します」
私の求めにそう答えてくれたのは、私の部隊の中で最も身長が高い散切り頭が特徴的な野戦ジャケット姿の白兵戦闘要員だった。
――ガルゴアズ・ダンロック――
二つ名は〝弔いゴアズ〟
元正規軍軍人で国境防衛部隊で連戦していた強者だった男だ。だが、ある作戦の失敗で彼を残して300名近くの隊員がほぼ全滅状態となった。
唯一の生き残りである彼は、命を救うこと、国を守ること、その意味を自問自答しながら今でも戦いの矢面に立っている。ある意味、私の部下の中で最も心優しい人物だ。
彼が愛用する精術武具は、二振りの片刃の長剣型で非常に珍しい音波振動を操る能力を持つものだ。
【銘:天使の骨】
【系統:歌精系】
【形式:二刀流牙剣、それぞれを撃ち合わせて共鳴させて使用する】
音叉か拍子木のように2本の剣を打ち合わせて様々な効果を発揮する。
特に1対多数の切り合い戦闘に効果を発揮する精術武具だ。
ちなみに私たちの国固有の形状の片刃の剣を【牙剣】と呼ぶ。
彼は音を操るその牙剣を完璧に使いこなしていた。
二本の牙剣を水平に平行に構えて静かに意識を集中させる。
「精術駆動 共鳴感知・心拍」
使用者であるゴアズが、自らの認識で探知対象となる音波振動を指定すると、同一の音波振動に共鳴して手応えが帰ってくる。
人間の心拍に探知する音波振動を合わせれば、遮蔽物の向こうに姿を隠した人間の心臓の鼓動ですらもほぼ正確に掴み取ることができる。
その時も、探知の結果はすぐに判明した。
「間違いありません。半地下階のさらに下に今なお隠れています」
私もそれと同時に自分自らも探査用途の精術を実行していた。
ハンマーステッキ型の愛用の精術武具の打頭部を下にして地面へと突き立てる。
そして、愛用武器の柄の部分を自らの額に当て、精術実行のための聖句を詠唱する。
「精術駆動 質量分布探知」
私の所有するステッキハンマー状の精術武具は、地精系と呼ばれる特性を有している。
その中でも物の質量や重力と言った力を制御することに長けているのだが、それともう一つ〝物の重さ〟の存在と位置を正確に把握することができる。
私はこれを利用して建築物や地下構造物の概要を掴むことができる。
「半地下階の中央真下にかなりの広さの空間があります。ですが――」
私は自らの脳裏にこの建物施設の内部構造を思い描いた。
「地下階への入口はおそらく二つ。一つは正面制圧部隊と小競り合いが生じている場所、そしてもう一つはこの裏口に通じる場所」
私の呟きにその場に居合わせたダルム老が尋ねてくる。
「裏口に上がってきてるのか?」
「いえ、まだ上がってきてはいません。ですが退路を求めて動き始めています。もしかすると未確認の退路がまだ隠されているのかもしれません」
ゴアズも何かを見つけたようだ。
「こちらでも地下階でも人の動きを感知しました。逃げ場を求めて脱出を図っているようです」
さらにプロアが決断を求めてきた。
「突入するなら今だな」
「ええ」
私は状況を整理する。
「ダルカーク1級は、こちらの入り口で待機しててください。敵側に思わぬ増援が来るかもしれません」
私の言葉に屈強な肉体のやたらとガタイの良い男が声を返してくる。
「心得た」
その声には生真面目さと素直さが滲み出ていた。
――ダルカーク・ゲーセット――
二つ名は〝雷神カーク〟
元正規軍の白兵強襲部隊の隊長を務めたことのある人物で、最前線での実戦をいくども積み重ねた歴戦の猛者だ。
籠手型の精術武具を愛用し、雷精を操ることから雷神の二つ名がついた経緯がある。
軍人らしい、いかにも義理がたく、実直な性格をしていた。
カークに入り口付近での警戒を任せて、裏側扉を私は自ら一気に破壊する。
「精術駆動 重打撃」
聖句を詠唱して精術を発動させる。ステッキハンマー型精術武具の打頭部の〝見た目上の質量〟を瞬間的に増大させる。
破壊力とは重さ。どんなに頑丈に組まれた分厚い扉がついてもひとたまりもない。両開きの一組の扉は一気に粉砕されて飛び散った。
――ドゴォーン!――
それと同時に一気に先へと進む。内部通路に人員は配置されておらず抵抗らしい抵抗は一切見られなかった。
拍子抜けだったが罠と言うことも考えられた。
押すか引くか一瞬の判断が頭をよぎるが、私は突入を選んだ。
「前進」
さらに一気に進む。通路を奥へと進むとひとつの扉が前へとたどり着く。
「ここだ」
そう呟きながら私は今日2度目の精術を行使する。
重打撃の聖句とともに扉を粉砕して内部へと入る。
幸いにしてここでも室内に立てこもる敵対者はいなかった。
「隠し扉があるはずです。探してください」
その言葉に仲間が一斉に動く。
室内をくまなく目視し、それらしい場所を探す。
やがてプロアが、床のタイルに巧妙に偽装してる形で扉が埋め込まれているのを見つけ出した。
斥候役が似合う彼らしく、注意力は確かなものがある。
「隊長、あったぞ」
隠し扉は両開き式の2枚扉。それを二人がかりで一気に開ける。その内部からひんやりとした空気が立ち上ってくる。
その中から感じる気配に私は〝当たり〟を引いたのだと確信した。
「お見事です。ルプロア準1級」
そしてその中に突入しようとした時だった。
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