都市自治会議臨時会議Ⅳ ―戦いの準備と、在外商人の承認―
レグノは落ち着き払った声で話し続ける。
「皆様に考えていただきたいのは内地商人の皆様方と、在外商人の我々のでは、それぞれ何が得意なのか? ということです。
内地商人の皆様方は当然ながら、この国に根を下ろしておりこの国の内部事情においては圧倒的な優位性があります。主体的にこの国の中で率先的に商業を行うのであれば皆様方の方に部があるのは自明の理です」
その言葉にいくつかの人々が頷いていた。否定する声は上がらなかった。
「しかしそれとは反対に我々在外商人は、国と国とをまたいでの商いには圧倒的な優位性があります。
例えば、私、レグノ・アントンはその活動拠点をヘルンハイトに置かせておいて頂いております。そのため国境を越えた地であるヘルンハイトでの商いにおいて、その国の内部事情や要人との繋がりなど、最新の情報がすぐに入ってくる状態にあります。
さらに例えばです。内地商人の方々でヘルンハイトでの商いで、タチの悪い貴族階級の人物に利益を不当にかすめ取られた――、そのような経験のある方おられませんか?」
レグノは一旦言葉を区切って周囲を見回す。会議場はざわめいていて心当たりのある人々が予想外に多いようだった。そして恐る恐る、いくつかの右手が上がる。想像以上に問題は深刻だった。
「結構です。お手を下げてください。
実は皆様方が直面している問題は私であればヘルンハイトの内部事情にまで普段から足を踏み入れているので、不利益を回避することが可能です。誰が避けるべき人物であり、誰が評価に値する人物であるのか? をあらかじめ知ることができれば、損失を避けることが可能でしょう。
また逆に、我々在外商人の立場としては、フェンデリオル国内の商いにおいて、公的機関や国家組織などの許認可を取り付けるなどの行為は、大変な苦労を避けきれないことが往々にしてあります。この点において内地商人の皆様方のご協力を得ることができれば、より円滑な商行為を行うことが可能となるのです。
私が申し上げたいのは、国の中と外、それぞれをつなぐことで、より大きな利益を生み出すことが可能になるということです。
さらに言い換えれば、我々の皆様方がより連携を組むことにより、このイベルタルの実質的商業圏は、フェンデリオル国内をはるかに超え、国の外にまでその手を広げることが可能となるのです!」
レグノの語る言葉に多くの人が頷いていた。賛同する部分があるようだ。
「さらには、我々在外商人は、より穿った形で得意とする商いを行なっており、その点においてもお手伝いをすることが可能になるはずです。
物流、金融、法対応、国外公的機関との交渉、鉱山、農業投資、商業投資、その他の様々な商いを手掛けている者達が随所におります。
それらを在外の行動団体を通じてお互いに手を結ぶことは可能になるはずなのです。そしてそれは必ずや多くの利益を生み出し、フェンデリオルの商業界が国境を越えてさらなる広がりを持つことが可能になるはずです。是非、その可能性について皆様方個人においてもご検討頂きたい」
レグノは自信ありげに語りきった。そしてさらに補足をする。
「なお、在外商人がフェンデリオルにおける軍役義務から除外されている件に関しては、一定額以上の正規軍活動への寄付や、一般市民の義勇兵や職業傭兵への支援活動を行い、軍役義務への対価とすることでご納得いただければと思います」
全ての意見を述べ終えて、彼は席に戻って再び沈黙を守った。
そして、シュウはレグノに労いの言葉を送った。
「ありがとうございます、レグノ氏」
シュウは再び立ち上がり皆に対して告げた。
「それではここで最終的な判断をお願いしたいと思います。ここに参加する内地商人・在外商人の各々の皆様方にお尋ねいたします。在外商人にまつわる特別承認制度と許認可管理委員会の設立についてご賛同いただける方はご起立願います」
シュウの言葉にアダマン議長は宣言した。
「復唱します、在外商人にまつわる特別承認制度と許認可管理委員会の設立についてご賛同いただける方はご起立願います!」
アダマンの宣言に応じるように議会席に座していた全ての商人たちは一斉に起立した。当然ながら過半数であり起立しなかったのはほんの少数に過ぎない。
この時立ち上がらなかった内地商人の数名は後に自らイベルタルから撤退している。在外商人をどうしても認める気にはなれなかったからだという。
ともあれ話し合いは成立した。
「賛同者多数! 在外商人にまつわる特別昇任制度とその承認管理運営委員会の設立案は可決されました」
アダマン議長の宣言に議会場のあちこちから拍手が沸き起こる。そして議席から立ち上がると会議場の中央舞台に人々が降りてくる。内地商人と在外商人、誰か始めるともなく右手を差し出しあい互いに握手を交わしていた。
今ここにイベルタルにおける在外商人問題は解決の節目を迎えることができたのである。
人々に聞こえるようにシュウは大きな力強い声で告げた。
「これで戦うための後顧の憂いは無くなったね。後は街の暗闇に潜んでいるネズミどもを退治するだけ! このイベルタルの街を救うためにも、全員の力を結集するよ!」
賛同の声が寄せられる。改めて人々は心と気持ちを1つにする。
今こそイベルタルの商人たちは新たな時代へと踏み出したのだ。







