メイラの受難Ⅲ ―メイラ、意趣返しする―
ややうつむき、いまだに顔を赤らめながら話し始める。
「あの、私あの時のお嬢様の気持ちがよくわかりました」
「え? あの時って?」
「1年前、お嬢様が家出からご実家にご帰還なされた時です」
「ああ、あの実家に帰る前の全身理美容の時ね」
「はい、あの時のお嬢様のお体の検診のことです」
そこまで話してメイラの顔がさらに真っ赤になった。シュウ様が興味深げに問いかけてくる。
「あら? そんなことがあったんだね。もう少し詳しく聞かせてもらってもいいかい?」
「はい。かしこまりました」
メイラはさらにお茶を飲んで気持ちを落ち着けながら言葉を続けた。
「ルストお嬢様は3年前に家出をなされて、2年間の1人暮らしののちに今から1年前にご実家への帰還命令が出されてお帰りになられる運びになりました」
「なるほど、有無を言わさず連れ戻されたわけだ」
「はい、ご両親との問題は既に解決していたのでその点では深刻な問題はなかったのですが、そこはそれ、高家のご令嬢が仮にも家出をして世の中をふらふら歩いていたわけですから、その間に病気を患っていたり不見識な行動をとっていたりしてないか、確認をするようにということになったんです」
「ああ、上流階級の候族様たちが悪さをしたご令嬢に仕掛けると言う、医師による身体検査だね? ルストもやられたんだね」
「はい、医師に診察台にあげさせられて徹底的にくまなく」
「ちょっと、メイラ――」
思わぬ打ち明け話に私は驚いたメイラの言葉は止まらなかった。いわゆる、とんだ意趣返しである。
「衣類をすべて脱いでいただいてガウン姿になり、診察台の上で特に腰から下は徹底的に調べていただきました」
「へぇ」
シュウ様がニヤニヤと笑って面白がっている。
「それでどこまで調べたんだい? 内診や肛門検診もやったのかい?」
忘れてはいなかったが、シュウ様は有数の娼館支配人でもある。雇っている女性達の身体検査や医療検診は途方もない数をこなしている。1年前のあの時に私が何をされたかは手に取るようにわかるのだ。
「あの――お願いちょっとやめて――」
私は思わず静止する声を上げる。でも、メイラは自らの恥ずかしさを私に丸投げすることを選んだのだ。
「はい、私が両足をしっかりと掴む形で内診や肛門の検診も女医の先生にしっかりと診ていただきました」
「おやおや、随分と容赦ないね」
「はい、ご実家にお戻りになられる際に、病気の有無と性経験の有無は確実に確かめるようにとのご実家の奥方様の強いお達しでしたので」
しっかり根掘り葉掘り説明されてしまった。あの時の全身を貫くような恥ずかしさが克明に思い出されてしまった。落ち着きを取り戻したメイラとは逆に、今度は私が真っ赤になる番だったのだ。
そこまで話してシュウ様が何かに気づいた。
「それってもしかして、ルストが私のところの娼館で、下働きをしていたからだね?」
「はい、シュウ様を前にしてこういうことをお話しするのは恐縮なのですが、やはりああ言う上流階級の場合、それまでの行動が何かと他者からの評価につながることがあります。特に娼館やいかがわしい酒場などで働いていた事実が判明した場合、医師からの診察は本家命令で徹底したものになるのが常です。お嬢様の場合もご多分に漏れず容赦ないものでした」
「なるほど、色事に慣れた花街の女ならいざ知らず、普通の暮らしをしている市井の女やご令嬢だったら恥ずかしすぎて耐えられないだろうね」
「ええ、お嬢様も一晩ふさぎこんでらっしゃいましたから」
「――――……」
私は完全にうつむいて自分の顔が芯まで真っ赤になるのを感じていた。あの時は本当に恥ずかしかったのだ。忘れてたのに!
すると、メイラがしれっとして私に問いかけてくる。
「あら、お嬢様、どうなされたのですか?」
こいつは、遠慮なしで何をしてくれてるのか。
「お願いですもうそろそろ勘弁してください」
「あら、これは失礼いたしました」
私たちのやり取りにシュウ様が笑っていた。







