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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
特別幕:水晶宮、使用人を全員あらためるの件について
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使用人ホールにてⅣ ―残り10人目の女、ネフェル―

 列の初めの頃の上級使用人の女性達の方は、年相応の豊満な肉体が多かったのだが、年齢が若くなるに従い未成熟な体が増えてくる。胸の大きさも人それぞれで、不似合いに大きくて、その事を気にしていそうな女の子もいれば、逆に薄い胸でも無駄のない体ゆえに彫刻のように美しい身体の持ち主の人も居た。

 肥満体型の子が1人もいなかったのはある意味見事だった。

 そんなふうに45人を流れ作業のように次々と確認していく。

 そして残り10人となった時だった。


 その女性は来客侍女(パーラーメイド)をしている女性で、すでに10年近くこの館で勤めている女性だった。10歳くらいの時に下働き見習いで入って来た人で経験的にはベテランに近い。

 私もその顔を何度も見ており、その手際の良さは私の所の侍女のメイラとタメを張れるくらいだと思う。そんな彼女が自分の番になった時に明らかに不自然なくらいに動揺をしていた。


 シュウ様が声をかける。


「どうしたんだい? ちゃんと姿勢良く立ちな。いつも言ってるだろう? 人に見られることをいつでも意識するのが客間侍女(パーラーメイド)の務めだって」

「は、はい」


 2人がやりとりをしている間に彼女の体を検分する。少なくとも体にはおかしいところは見当たらない。ならばなぜこんなに怯えるのだろうか?


「もしや――」


 私は直感するものを感じた。彼女の頭に注目しその髪の毛を詳しく観察しようとした。その時だった。


「いやぁっ!」


 彼女が不意に抵抗した。明らかに拒否している。


「彼女を押さえてください」


 私が声を発すれが周囲から数人の侍女が一斉に集まり彼女の体を強引に抑える。頭を動かさないようにがっしりと捕まえてもらうと、丁寧に編み上げたその髪をほどいて頭の地肌を詳しく調べ始める。すると――


「あった! シュウ様これをご覧ください」

「これは? 頭の地肌に?」

「はい、どんな模様かは髪の毛を剃らないと分からないのですが、髪の毛の隙間から見えている模様を推察すると手のひらほどの大きさの東洋龍だと思われます。

 ちょうど頭頂部のやや左側から後頭部にかけて彫られているものかと」

「ああ、間違えないようだね」

「では彼女が」

「潜伏者だね」


 確定した事実に愕然とするが事実は事実だ。


「私の今までの経験からいっても、潜伏者というのはまさかこの人が? と言うような意外な人物がやってることが多いです」

「ああ、そうだろうね」


 そう答えるシュウ様もショックを受けてるのは明らかだった。

 同じ列で、すでに検査を終えた8人に服を着るように命じると、彼女に着せるガウンと拘束用のロープを用意させる。ガウンを着せて両手を後ろ手に縛り上げる。さてその場に膝を折ってしゃがませる。

 そしてその場で簡単な尋問を始めた。

 シュウ様が彼女に問う。


「ネフェル、あんたは私のところに来てもう10年になる。その間一度もそんな素振りは微塵も見せなかった。そればかりか働きぶりはいつでも人一倍、あんたの事は将来の侍女長にと考えていただけに本当に残念だよ」


 声を震わせて問いかけられたその言葉に、ネフェルと呼ばれたその女性は両目から大粒の涙をこぼし始めた。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい――、でも言うことを聞かないと――お母さんが、私を産んでくれたお母さんがあいつらに――殺される」


 私は尋ねた。


「あいつらとは?」

「黒い鎖――」

「脅迫されていたのですか?」


 彼女はそこで唇をぐっと噛み締めるとがくりとうなだれて残酷な事実を語り始めた。


「私は黒い鎖の組織の中で〝飼育〟された奴隷です」


 その事実に皆が言葉を失った。しかし、私の場合自らの部隊の仲間にパックさんと言う実例があるだけに彼女の言葉を否定する気にはなれなかった。


「お母さんの顔見たことありますか?」


 彼女は弱々しく顔を左右に振る。


「物心ついたときから同じような立場の女の子たちと粗末な小屋で暮らしていました。世話係の人たちはいずれも厳しく乱暴な人たちばかりでずっと怯えて暮らしていました」


 彼女は観念すると自らの生い立ちのすべてを語り始めた。


「8つの歳の頃に、頭の髪を剃られて無理やり頭の地肌に刺青を入れました。そして髪の毛が生え揃うと組織の外に出るための教育と訓練を受けた。そしてそのまま奉公に出されました。そこで送り込まれたのがシュウ様のところだったんです」


 シュウ様は彼女に尋ねた。


「今まで何回、情報を漏らしたんだい?」


 彼女は顔を左右に振る。


「一度だけです。プリシラ様が訪れた時に組織からの密命が届きました。特別な来訪者の動向を知らせろ、と――。そしてその密命の書類にはある物が書いてありました」


 私は嫌な予感を感じながら彼女に問いかける。


「ある物とは?」


 彼女が声を詰まらせる。彼女の心の中ではとてつもなく吐き出しにくいものだったのだろう。彼女は何度もえずいて苦しい胸の内を押し殺しながらある事実を答えた。


「私の生みの親のお母さんの名前の所在です。手紙には〝女性の小指〟が一緒に入っていました。命令を実行しないと――う、うっ――」


 女性の小指の切れ端、これほどまでにわかりやすくインパクトのある強迫は他にない。さすが人を脅すことに長けている組織だけはある。

 そこから先は声にならなかった。泣いて泣いて号泣して狂いそうになるほどだった。床にひれ伏して泣き続けるだけだった。 


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