使用人ホールにてⅢ ―45人の身体検査と、やっちゃった女の子リリアン―
そこから先は流れ作業のようなものだった。
一度始まってしまえば恥ずかしいとかそんなことを考える余裕はない。
自分の経験から言えば軍学校時代の身体測定や医療検診に近い。女性兵士や女性士官候補といえど、身分の区別なく特別扱いされることはなく、男女別で別れるとは言え最低一度は体をくまなく調べられるのだ。
その意味では私にとって2度目の体験と言えなくもない。
1列目の9人が1つ後ろの列の女性の手を借りて着衣を手早く脱いでいく。ボディラインを作るソフトコルセットを外し、下着も脱いでそのままで直立する。
これを私とシュウ様が同時に順番に確かめていく。当然ながら上級使用人ともなれば異変を感じるところはどこにもなく問題なしとされた。
ただそこで私は確認するところをもう1つ増やした。
「身体を確かめたらその場で膝をついてしゃがんでください。頭の髪の毛の地肌を軽く確認いたします」
「どういうことだい?」
この声を投げかけてくるシュウ様に私は答えた。
「今までにいろいろな刺青を見てきましたが、頭の地肌に刺青を彫っている事例もありました。当然髪の毛が伸びてくれば刺青の発覚はより遅らせることが可能になります」
「いいだろう、そちらも頼んだよ」
「承知いたしました」
こうして検査は粛々と進む。
さすがと言うか、お見事と言うか、
シュウ様のところの侍女の女性たちは美しい人たちが多かったのだが、生まれた姿になってもらっても、均整の取れた体、輝くような磨き上げられた肌。当然無駄な贅肉はついておらず女性の私から見ても惚れ惚れとするような美しい体の持ち主ばかりだったのだ。
体に刺青のあるものはほとんどおらず、全ての人たちが肌の美しさというものを大切にしていた。刺青とは素肌に自ら傷をつける行為だ。この館の人たちがそのような事をするということ自体が考えにくいのだ。
ただ途中で、東方龍模様を右の脇腹に極めて小さく彫っている女の子が1人だけいた。私たちにそれを見られた時に真っ青になり全身でガクガクと震えていた。
話しかけようとしたが明らかにパニックになりかかっていた。
私はシュウ様と視線を合わせると頷きながら優しく問いかけた。
「落ち着いて。いきなり捕まえるようなことはしないから。この彫り物、あなたの意志で入れたものじゃないでしょ?」
邸宅侍女をしていると言うそのリリアンと言う女の子は、まだ年の頃18そこそこだ。顔立ちにもどことなくあどけなさが残る。彼女は怯えながらも、刺青の理由を弁明し始めた。
「は、はい――、私、恋人はいるんですがその人がお揃いの物を入れようって何度も勧めてくるんです。仕事場で怒られるからって断ったんだけどほんの小さく入れれば目立たないからわからないって。
それに、初めてできた恋人だったから捨てられるのがとても怖くて、根負けしてつい――」
私は心の中でため息をついた。たちの悪い男に良いように言いくるめられて言うことを聞かされる流れだ。この後は金をせびられるようになり、最後は借金を背負わされてどこかに売り飛ばされるのがオチだ。
どこでもよくある光景だ。そう、どこでも――
「どうやら、たちの悪い虫に取り憑かれていたようですね」
「ああ、そのようだね。しばらく謹慎はさせるけど身辺事情が分かったら仕事に復帰させよう。それにこんな小指の先くらいの大きさだったら、皮膚を切り貼りして分からなくすることはできるからね。多少傷跡が残るけど、こんなものを体に残しているよりはましさ」
「え、刺青を消せるのですか?」
「大きさの小さいものだったらね、面積が大きくなってしまうとさすがに難しいけどね」
「そうですか」
私は侍女のその彼女に言った。
「あなたには当面の間、謹慎していただきます。その間にこの刺青を彫るように強要した人物を調査します。刺青を彫った時の事情が判明次第、謹慎処分を解除することになります。それまではおとなしくして控えていてください。いいですね?」
「は、はい」
そこにさらにシュウ様が言った。
「女の方が嫌だ嫌だと抵抗しているものを、しつこく食い下がってねちっこくやってる男なんてろくなのはいないよ。もっとひどい目に遭わされる前にさっさと別れな。いい男ってのは他に必ずいるからさ」
「はい――」
「さ、服を着な。そして部屋の隅で待機していな」
「わかりました。ありがとうございます」
その女の子は涙で顔をくしゃくしゃにしながら何度も頭を下げて部屋の片隅の椅子のあるところに腰を下ろしていた。







