使用人ホールにてⅡ ―45人を前に、ルストとシュウ見本を示す―
そんな彼女たちにシュウ様は問いかける。
「異論のある者は?!」
その強い言葉に対して声はなかなか帰ってこない。上級使用人のベテランたちは、この状況が彼女たちの主人であるシュウ様の意向であるなら絶対にノーとは言わないのだ。それほどまでに強い信頼関係が築き上げられていると言うことなのだろう。
だが、経験浅い、若い子たちは違う。あまりに唐突な事態に、戸惑いよりも羞恥心のほうが先に立つだろう。
列の後方の方から、恐る恐るに手を上げる者がいた。
「あ、あの――」
「なんだい?」
「洗い場侍女のマイアと言います。その――、体をあらためるためには〝すべて〟脱がなければならないのですか?」
質問してきたのは小柄な体の16歳くらいの少女だった。彼女の疑問を受けてシュウ様はこう答えた。
「原則として全て脱いでもらう。ただし、極力短い時間で済ませる。それと条件は全員同じになる。無論私もだ」
「えっ? シュウ支配人もですか?」
「本当ですか?」
これにはさすがに驚きの声があがっていた。しかしその理由をシュウ様はきっぱりと答えた。
「下々の人間だけに恥ずかしい思いをさせるつもりはない。やるなら本当の意味で全員で一斉にやる。それならしんどい思いは短くて済むだろう?」
「わ、わかりました」
驚きの答えに不満や疑問の声は一斉に封じられた。この場にいた全員が納得せざるを得ない。そんな見事な回答だった。
「とはいえ、調べる者と、調べられる者とに別れなければならない。段取りよく進める必要もある。列の前側、立場が上の者から9人づつ、順番に調べていく。無論一番最初は私と――」
ふとその時、シュウ様は右手で私の肩を叩いた。
「プリシラ、あなたもだよ」
「あ、やっぱりそうなりますよね」
「当然だろ? この部屋の全員と言ったからね私は」
「そうですよね。承知いたしました」
つまりこれはあれだ。立場が一番上の者の方から見本を示すことで全体の流れを円滑に行うための配慮というやつだ。当然この場で立場が一番上になるのはシュウ女史だし、私はプリシラとしてならばシュウ様に最も近い立ち位置になるのだ。それで特別扱いをしてもらうというのはさすがに無理がある。
これはもう、さっさと終わらせるために腹をくくるしかなかった。
「最前列の9人は出ておいで。私とプリシラの脱ぎ着の補助を頼むよ」
シュウ様の呼びかけに上級使用人の9人が足早に一斉に駆け寄ってきた。
さすがに私と言えども、45人の女性たちを前にして、素肌を晒すのはかなり抵抗があった。ただ私の傍にいるシュウ様があまりに見事な脱ぎっぷりだったので勢いに飲まれてしまったと言うか、恥ずかしがって戸惑っているのが無意味に思えてしまい、恥ずかしさなど途中でどこかへ行ってしまった。
私とシュウ様、同時に生まれたままの姿になり、シュウ様の上級使用人たちが私たち2人の体を確かめていく行く。当然てっぺんからつま先まで。この点においてはシュウ様は自分たちを特別扱いさせるつもりは毛頭ないらしい。
まさに見本を示すというやつだ。その覚悟と豪胆さはあっけにとられるしかなかった。
そんな私たちの体を調べた結果を、ウィーラ侍女長が記録していく。
「シュウ様、エルスト様、何も異常なしです。お召し物をお付けになってけっこうです」
しかしながら場の空気がとんでもないことになっていた。恐れ多くも北の女帝の肩書きを持つほどの威厳に満ちた傑物の女性だ。その見事なまでの神々しさの裸身を目の当たりにして熱気に当てられる女性たちがちらほらと現れたのだ。
私も思わず傍らで見惚れていた。
ムダ肉は微塵もなく、それでいてやせ細っているというイメージはない。まさに神話の中の女神のごとき、美しさと色香があった。
――あれっ?――
ただ1つ気になったところがあって、背中の背骨の少し下の腰骨の辺りでほんのわずかに微妙な縫ったあとがあった。昔に怪我でもして治療でもしたのだろうか? 私は疑問に思ったが今ここではそのことを掘り下げなかった。
異様な熱気に辺りが包まれる中で、私たち2人は着衣を元通りに着なおした。
「それじゃあ次だね。最前列の9人の番だよ」
「はい、支配人」
それまで私たちの体を確かめていた最初の9人が次に生まれたままの姿になる順番になる。その彼女たちの補助をするのは次の列の9人ということになるのだ。
こうして水晶宮の女性使用人45名の身体確認が始まったのだった。







