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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第7話:仲間との絆 ―最悪の蹉跌と再起への道―
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臨時合同作戦会議Ⅴ ―2つの作戦フェイズと、足元の大掃除―

 一通りの賛同の意思が一つに集まった。シュウ女史が私に求める。


「それじゃあ今後の行動についてはルスト隊長からお願いするよ」

「はい」


 シュウ女史の言葉を受けて私は立ち上がる。


「それでは今後の具体的行動内容と方針について述べさせていただきます。

 行動段階を2つのフェイズに分けさせていただきます。すなわち――


 最大警戒フェイズと

 一斉制圧フェイズです


 この2つのフェイズについてご説明いたします」


 私はさらに言葉を続けた。


「まず具体的な制圧行動に移る前に準備段階として、ある人物の身柄確保と制圧を行います。既に議論の俎上に載せていることからご存知の方もおられるかもしれませんが、私は今現在ある人物を追っております。

 ヘルンハイト出身の製鉄工学博士ケンツ・ジムワース博士です。

 彼は今現在、黒鎖(ヘイスォ)に目をつけられており彼の身の安全を図るには緊急を要するというのが私の判断です。

 それに何よりケンツ博士と黒鎖の関与に関しては、彼に関する調査活動を開始して、極めて短期間で黒鎖(ヘイスォ)からの強烈な妨害行動を受けたというのが何よりの状況証拠になると考えています」


 そして私は〝最大警戒フェイズ〟の具体内容について口にした。


「まず私とイリーザのメンバーがケンツ博士関連の諸問題を早急に解決いたします。そしてそれと同時に制圧作戦決行の準備段階として諸組織におかれましては、それぞれのお身内の不審人物の洗い出しと排除をお願いしたいのです」


――身内の不審人物排除――


 その言葉は少なからずざわめきを招いた。

 これについてはシュウ女史が言葉を添えてくれた。


「今回のエルスト嬢の拉致事件だけど、詳細を調べていくとイベルタルの街中の至る所にかなりの数の〝潜伏者〟が潜んでいると考えられるんだ。今後の制圧作戦決行に際してはそれらの潜伏者が最大の障害になると読んでいる」

「おっしゃる通りです。そのため作戦決行に必要な重要情報の漏えいを防ぐ意味でも、少しでも不審な要素がある人物は情報遮断を行った上で詳細な身辺調査をお願い致します」


 その言葉にアーク自警団部隊長が口を開いた。


「なるほど、作戦決行前の足元の掃除ってやつだな」


 カーヴァ氏も言葉を添えた。


「今回のルスト嬢の拉致事件では花街の高級酒房で男性従業員が拉致の手引きをしていたと言うのは最大限の衝撃を持って認識されています。ショックを受けて仕事に出ることを拒否する酌婦の女性たちも決して少なくない。一部で少しずつやるのではなく一斉に行うことで敵の行動を牽制することにもなるでしょう。これは今後のイベルタルの治安回復を図る意味でも極めて重要な行動です」

「おっしゃる通りです。なお、潜伏者をあぶり出す際の判断基準についてですが、正規軍のレギオ大佐を通じて、オルレア軍警察本部所属の犯罪取締第4局のゼイバッハ大佐から必要資料を入手しております」


 その言葉と同時にレギオ大佐が立ち上がる。

 そして会議室の片隅で佇んでいた大佐の部下たち数名が書面に作られていた資料を配布し始めた。

 レギオ大佐が言う。


「こちらがその資料になります。部外秘ですので必要項目をこの場においてご記憶下さい。流出を避けるためこの会議室の外部に持ち出すことを制限させていただきます」


 必要資料をその場で認識する。軍事作戦においては当たり前にある行動だった。


 みんなが無言で資料に目を通す。雑談を挟む余裕は全くないからだ。

 一通り目を通し終えて口を開いたのが花街の顔役であるカーヴァさんだった。


「やはり、一番の見分けるポイントは〝刺青〟だったのですな」


 そこに言葉を投げかけたのは武術家の艮大門(ゲン ダーメン)さんだった。

 

「えぇ、しかもただの刺青ではなく〝龍の刺青〟――東方社会で尊ばれている天駆ける東洋龍です。本来であれば畏敬の念を持ってして触れるべき物ですがね」


 私の部隊の仲間のパックさんが声を漏らした。

 

「龍の名を称号としていただく者として噴飯やる方ありません」


 パックさんは祖国で〝龍の男〟の称号を得ている。それ故の思いだった、だが、颯蓬鬆(サー・パンソン)さんがたしなめるように声を添えた。

 

「なればこそです。この戦いを勝ち抜いて、「天駆ける龍」の名誉を取り戻すのです」

「うむ」

「確かに」


 3人の東方人実力者の言葉は何よりも重いものだった。

 さらに、それに対して言葉を添えたのが私の仲間のプロアだった。


「奴らにとって刺青を彫らせるというのは、新参者を組織の一員として自認させるための通過儀礼のようなものだからな。構成員識別の証拠になるとわかっていても仲間意識を植え付けるためにはどうしても必要と思い込んでるのさ」

「それならば〝身体検査〟はいずれ必須となるでしょうな」


 それに対して私も言葉を添えた。


「仕方ないでしょう。案外日時を決めて街全体で一斉にやってしまうのが最善でしょうね」


 だがそこにシュウ女史が言葉を挟んだ。


「いや、街全体ではやらなくていい。私に考えがある」

「えっ? どういう方法ですか?」


 私の問いかけにシュウ女史はニヤリと笑った。


「ここでは言えない。外部に漏れると厄介だからね。ただ、潜伏者全体に心理的動揺を誘発させるとだけ言っておこうか」

「わかりました」


 私はそれ以上掘り下げなかった。シュウさんがこの意味ありげな笑みを浮かべてる時は何が絶対とてつもないことを考えているからだ。そしてその際に私に視線を投げかけているということは、絶対に私を巻き込もうとしている。困ったことに。

 

――シュウさんが自力ですぐに出来て、なおかつイベルタル全体へあたえる衝撃が大きいことといえば――


 いやいやいや、心の中で冷や汗をかいていたが、何を始めるのかは、とりあえず今は考えないでおこう。


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