臨時合同作戦会議Ⅳ ―各行動勢力、賛同の意思―
「それじゃそれぞれの勢力の意思確認を行うよ。まずはイベルタル都市自治会議は今回の計画に全面的に賛同する。これ以上イベルタルの治安状況の悪化を黙認するわけにはいかないからね」
シュウ女史はイベルタルの都市自治の頂点を掌握している。そして何よりこの街を愛している。それに加えて私の拉致未遂事件が起きた。外面的には落ち着いているが腹の底が煮えくり返っているというのが本当だろう。
そして次にバナーラ氏に視線が向かう。
「次に、イベルタル商業ギルド連合会」
これに答えたのはギルド連合会の会長次役を務めるバナーラ氏だ。
「この計画に賛同する。すでにイベルタルからの撤退を検討している商人たちもいる。状況の改善が見られなければ破産する者も現れるだろう。商人の繁栄なくして商業都市であるこの街は成り立たないからな」
「心得た。次にイベルタル娼館・酒楼業連合協会」
この問いかけに答えたのは花街の顔役であるカーヴァ氏だ。
「もちろん賛同いたします。治安の悪化により花街で働く女性たちの顔から笑顔が消えつつあります。このような状況は2年前に起きた梅毒騒動以来だ。あの街で働く女性たちの笑顔を何としても取り戻してやらなければなりません」
「いいだろう。次に東方人の華人協会」
この問いかけに反応を示したのは颯蓬鬆さん。
「今や東方人の名誉は地に落ちたと言っていい。このままではこの国で暮らしていくのも困難になってしまう。しかしこの国における東方人に対する信頼と信用は我々自身が異国の大地で血を吐きながら働き続けて積み上げたものです。後から来たよそ者に食い荒らされる筋合いはない。今回の計画に心より賛同いたします」
「ありがとうございます。次は運送業・馬喰ギルド」
この問いかけに答えたのは一昨夜に私の救出に協力してくれた運送業者の彼――チハヤ・マテニージョだった。
「当然だろ? 賛同だ! 物流業界というのは人手人足の調達において東方人の協力は絶対に欠かさない。何より商業には俺たちみたいな運び屋は必須だ。しかしあの黒い連中が現れてからというもの俺達運び屋の流儀は荒らされる一方だ。暴力的に客をかっさらったり、不当な料金を脅し取るような事件が後を絶たない。このままでは真っ当に商売しているやつが馬鹿を見ることになるからな」
相当に被害を受けているのだろう。その声は怒りに満ちていた。
シュウ女史は礼の言葉を口にする。
「ありがとうございます。それでは次、イベルタル都市自警団」
「おう!」
威勢の良い声で返事をしたのは自警団第1部隊長のアーク・ノバステロだ。
「今回の合同作戦には全面的に賛成する。この街の治安を取り戻す最高の機会だからな。作戦遂行の準備に必要なものがあればいつでも言ってくれ」
非常にわかりやすい力強い返事だった。
「ありがとうございます。それでは次、フェンデリオル正規軍」
「はっ!」
力強い声と共に立ち上がるのは、イベルタル駐屯部隊のレギオ大佐だ。
「当然ながらこの共同作戦には全面的に賛同するものであります。戦闘行動というのは機を見て電光石火の勢いにて行うもの。そして今こそがその時かと思われます」
「ありがとうございます。そして闇社会勢力を代表して〝地下オークション組織〟」
意外な勢力の名前が呼びかけられた。そこで声を発したのは颯蓬鬆氏だった。
「地下オークション組織からの要人を私の繋がりからお招きしている。さ、ご案内なさい」
「はい」
颯氏の隣に腰を下ろしていた若い女性が立ち上がる。歳の頃は二十代後半というところだろうか? 白いシャツに革ベスト、男性物ズボンにメスジャケットという出で立ち。短めの髪が整った顔立ちにマッチしていてとても凛々しい印象があった。
「わたくし、地下オークション組織『秩序』にてオークションディーラーを務めさせて頂いております〝リブロ・リベラ〟と申します。イベルタル闇社会を代表する最大勢力の1つとして今回は共同作戦には全面的に賛同の意思を示させていただきます。長年の懸案に対する前向きの意思を示していただき誠に感謝するものであります」
闇社会勢力、彼らの意思を確認するのは重要だった。
「ご回答ありがとうございます。そして次に〝在外商人集団〟」
これに対して答えたのはもちろんレグノさんだった。
「在外商人集団〝ヘルメスの鍵〟を代表して本件に関し賛同と協力の意思を示させていただきます」
当然の答えだった。彼はさらに言葉を添えた。
「なお、既に我々の仲間がある目的を持って行動しております。そろそろ到着する予定ですのでその際に皆様方におかれましても重要な情報を提供させて頂く所存です」
計算高く抜け目のない彼らはすでに行動を開始していた。その行動力と決断力の高さ、私たちイリーザのメンバーに通じるものがあった。
「ありがとうございます。後ほどもたらされると言う情報についても期待させていただきましょう。
さて、これで主だった勢力には全て意思表示をしてもらっているね。最後に――〝イリーザ〟」
「はい」
私は立ち上がった。そして力強く告げる。
「フェンデリオル正規軍外郭職業傭兵特殊部隊〝イリーザ〟は、本特別共同作戦に全面的に賛同するものであります。これは最大のチャンスです!」
そして私は皆を見回しながらこう告げたのだ。
「繁栄と平穏を必ずや取り戻しましょう!」
その言葉に皆が頷き、誰ともなく拍手が沸き起こった。我々の反撃はここから始まった。







