ルスト、イリーザの仲間たちに釈明する
部屋の中には背もたれ椅子もあれば応接セットもある。私から少し離れた位置にそれぞれがそれぞれに腰を下ろして行った。
「それじゃあ早速頼むぜ」
「ええ」
ダルムさんからの求めに応じて私は説明を始めた。
「まずは皆さん。本当にご迷惑おかけしました」
私はベッドの上で頭を下げた。みんなからは非難する声は聞こえてこない。
「まずは、今回私が行なっていた任務について説明したいと思います」
まずはそこから説明を始めるしかないだろう。
「話は、密輸出組織〝闇夜のフクロウ〟の制圧作戦の後にさかのぼります。制圧現場の残存物から暗号化された文章の燃え残りを見つけました。そして、それを解析することである1人の人物の名前を見つけました」
するとプロアが指摘する。
「ケンツ・ジムワース博士ってやつだろう?」
「はい。まずはその名前の人物の実態調査から始まりました。製鉄工学の権威であること、ヘルンハイト公国から移籍してきた人物であること、そして筋金入りの平和主義者であり軍隊否定者あることなどが分かってきました。
そして、一番重要だったのが現在の赴任先であるドーンフラウ大学において、学生からの授業ボイコット事件を引き起こしてしまい事実上の謹慎状態になるということでした。これにより博士は経済的に追い詰められることになりスポンサー探しに奔走するようになります」
ドルスがつぶやく。
「それで?」
「その時点での状況において、闇夜のフクロウには背後に黒鎖の介入があること、闇夜のフクロウを実質的に支配していた人物が黒鎖の構成員であったこと、黒鎖がケンツ博士の名前を知っていたこと――これらの事実から早急に博士の身柄を抑え保護する必要があると判断。博士が現在スポンサー探しを行なっているというこの街に来ることになったんです」
ゴアズさんが尋ねてくる。
「その話と隊長が酌婦に扮した事実とどう繋がるのですか?」
「それは、ケンツ博士がスポンサーとして交渉していた相手が〝在外商人〟と呼ばれる人たちだったからです。彼らに素性を隠して接触する必要が出てきたため効率よく確実にアプローチする方法として、彼らが宴席を持っている場に訪れて直接話を聞いた方が早いと思ったからです」
カークさんが渋い顔ながら頷いていた。
「なるほどよくわかった。それでなんでそんなにそのケンツって博士がそこまで重要になるんだ?」
「おっしゃる通りです。これには彼が研究対象としている製鉄工学技術が関連しています。彼の研究内容は非常に革新的なものであり鉄鋼の安定した大量生産につながるものです。これを軍事転用された場合、戦線において多大な影響を及ぼすことが考えられます。例えばです軍事用の船舶の船体に大きな鉄の板を貼り付けて鉄鋼戦艦を作り上げたらどうなりますか?」
その指摘に表情を変えたのは元軍人の4人だった。特に銃器や火薬に詳しいドルスは少し蒼白だった。
「そいつはまずいな」
「はい、それにもう1つ、ケンツ博士の身辺事情を調べる過程でもう1つ重要な事実がわかりました」
パックさんが問うてくる。
「その事実とは?」
私は声を落ち着けて続けた。
「我がフェンデリオルの同盟国であるヘルンハイト公国の国防機能が機能不全に陥っていると言う事実です」
これを口にした瞬間、皆の顔が一斉に凍りついた。私はそのまま言葉を続けた。
「厳密には、今、ヘルンハイトは重篤の政情不安に陥っており政治が混乱状態にあります。ヘルンハイトで学術研究を行っていたケンツ博士がフェンデリオルに移籍してきたのは、大学からの研究活動資金を打ち切られたためです。博士ほどの研究技術を持っている人物であれば国家予算を割いてでも国内に留めるべきです」
「だが、そうではなかったと?」
ゴアズさんの声に私は頷いた。
「はい。無情にもヘルンハイト政府とあの国の最高学府は彼への資金提供を打ち切りました」
ダルムさんがつぶやく
「そいつぁ、まずいな。学者さん達にとっちゃ資金打ち切りは〝死ね〟と言っているようなもんだからな」
「はい、そのとおりです。そして、これが一番最も重要なのですが――、我々の敵対国家であるトルネデアス帝国は海路からの侵略を企てています。ルートは2つ、南側のパルフィア王国ルート、そしてもう1つ凍てついた海を踏破する〝北方海ルート〟です。そしてある重要な事実を皆様に知ってもらいたいのです」
この言葉に皆の視線が私に集中した。
「トルネデアスは〝砕氷船〟を建造しようとしています」
「なんだって?!」
兵器に詳しいドルスの驚く声が響く。
「嘘だろう?」
「いえ、最先端の情報を集めるジャーナリストの方から聞いた確実な情報です。砕氷船の建造するにあたり何が必要になるか解りますか?」
その問いの答えを口にしたのはドルスだった。
「――優れた鋼鉄――」
私は頷いた。







