二人の名医の診察結果
「はい結構です。元に戻しますね」
着衣を戻して診察を終える。寝具もかけ直される。そして私にトゥーフォさんは診察結果を口にした。
「失礼いたしました。お体の見聞が済んだので診察結果の方をお伝えいたします」
診察結果の詳細をパックさんが口にする。
「隊長が飲まされた毒というのは。おそらく〝バイケイソウ〟と言う植物でしょう。山林に自生していて、山菜と間違えて誤食することの多い植物です。そしてその主な症状は――循環器系の異常からくる血圧低下」
「バイケイソウのエキスを抽出して清涼な水に混ぜて飲ませたのでしょうね」
「おそらくそれで間違いないと思います。ちなみに、本来であればバイケイソウの成分には独特の苦みがあるので分かるのですが、状況からして飲酒をされた後だったということなので味覚が不確かになっていたのでわからなかったのだと思います」
そこにトゥーフォさんが更に詳しく説明してくれた。
「薬学研究の資料では、バイケイソウの毒は血液の循環に影響を及ぼすと言います。貧血による失神、心臓麻痺、そして血管の拡張から来る血圧の低下。それで体に力が入らなくなるのです」
「いずれにせよ今回は致死量には至らなかったものと思われます」
「副作用は――何かありましたっけ?」
トゥーフォさんの問いかけにパックさんは苦笑しながら答えた。
「一応、バイケイソウの毒には妊婦に障りがあると言われています。おなかの中の赤子に影響が出るのです。ですが今の隊長には差し障りはないかと」
「ええ、そうですわね」
トゥーフォさんは私を見てこうつぶやいた。
「プリシラ様はまだ殿方とのご経験は未経験のようですので」
思わぬ指摘に私は顔から火が出る思いだった。
「わ、わ、分かるんですか?」
「ええ」
トゥーフォさんは少し困ったふうに笑みを浮かべた。
「はい、男性に襲われたというので、昨夜収容された直後にお体の被害状況を確かめるため、女性としての部分を内診させていただきました」
内診――、女性としてのアソコの部分に指を差し入れて内性器を直接確かめると言うあれだ。前に一度、実家に帰還する際に身体検査でされた経験がある。その時のことを思い出して恥ずかしいことこの上なかった。
「あの、そのことはあまりお話にならないでください」
「あら? 無敵のプリシラ様も苦手なことがおありになられるのですね」
今回はパックさんと言う男性も居るので尚更に恥ずかしい事この上なかった。だが、ここにいる殿方がパックさんだったと言うのもある意味幸運だった。完全に落ち着き払って私に向かってこう語ったのだ。
「女性が戦場や荒事のある場所にいると、多かれ少なかれ女性としての純潔が危機に陥ります。どんなに警戒をしていても、思わぬ罠に足をすくわれるのはむしろあって当然です。こういう言い回しは下世話かもしれませんが、未来あるお立場である貴女の〝花〟が散らされなかったというのは何よりも幸いです。何より、ご実家におられるお母上が心痛を患うこともありません。まずはご安心を」
「そうですわね。それに娼婦ならいざ知らず、酌婦の中には殿方に肌を許さないと言う仕事の決まり上、それを逆手にとって処女の純潔のまま仕事に勤しんでいる人もいます。なにわともあれご無事で何よりです」
「ありがとうございます。パックさんもわざわざご苦労様です」
私の語るお礼の言葉に2人とも満足げに頷いていた。
トゥーフォさんがこれからのことを説明してくれる。
「これからの経過ですが、体に入った毒の排出を促すために、点滴治療と並行して、サウナと薬湯の温浴により発汗を促します。あとはランパックさんの処方による毒下しで解毒を進めます。順調にいけば明日明後日には体調も戻られるかと」
「わかりました。よろしくお願いいたします」
だがそこで思わぬ言葉をパックさんが投げかけてきた。いや思わぬというより当然という言葉だったが。
「ちなみに隊長、イリーザの他の隊員の者たちが釈明を求めています」
パックさんの声のその部分だけものすごく冷静だった。
ベッドサイドのテーブルに置かれたティーカップを取ろうとした時だったから思わず落としそうになった。
「おっと」
ティーカップはトゥーフォさんが受け取ってくれた。けど、私の頭からは一気に血の気が引いた。そしてさらに追い討ちをかけることが起きた。
「失礼いたします」
部屋の扉がノックされる。この声はアシュレイさんだ。
「ルスト様の専属使用人の方がお見えになられております」
そして私はもう一段、血の気が引くことになる。もう貧血で倒れそうだ。ちょっと待ってちょっと待って! この流れと展開はものすごくまずい!
私の狼狽えぶりと蒼白の表情でトゥーフォさんは私が何に不安を持っているかを即座に読み取ってくれた。
「あら? プリシラ様、もしかして貴女にとって最も怒らせたくないお方のようですね」
そこにパックさんが言葉を添えた。
「ああ、ザエノリアさんですね。確かにあの方でしたらこの状況は一言口にしないと収まらないでしょうね」
「いかがなさいますか? プリシラ様、いえ、ルスト様?」
もたもたしていると間違いなくもっと怒らせる。ここは腹をくくるしかない。
「お、お通ししてください」
私のその言葉を受けて扉が開かれるとそこから現れたのはやっぱりノリアさんだった。







