目覚めと朝食とシュウの来訪
それから時間が過ぎて私は声をかけられて目を覚ました。
「おはようございます。ご気分はいかがですか?」
部屋のドアを開けて声をかけてきたのは、看護師ではなくエプロンドレス姿の侍女だった。周囲を見回せば、寝室の壁際には小さな棚がありそこに時計が置かれ、時計の針は7時半を指していた。
すっかり目を覚まして体を起こそうとしてみる。力が入らない状態は幾分弱まってきたが、完全回復にはあと2日といったところだろう。
「ありがとうございます。なんとか落ち着いて体を起こせるくらいにはなりました」
「吐き気や頭痛の方は?」
「昨日の段階では多少ありましたが、今そんなにひどくありません」
「他には? 体の痛みや熱っぽさは?」
「いえ、むしろ体の芯の方が冷えるような感じがまだ残ってます」
「はい、ありがとうございます。それでは朝の食事をお持ち致しますね。食べ終えて少し休憩を挟んでから先生の診察がありますので」
「はい」
「それでは後ほど」
そう言葉を残してエプロンドレス姿の侍女の女性は去っていく。私は部屋の中をあらためてじっくりと眺めてみた。そこはかとなくどこかで見たような記憶があるからだ。
「ここってもしかして」
ここは病院じゃなくて、もしかすると――
――ガチャッ――
不意に私の部屋の扉が開いた。
「具合はどうだい? プリシラ」
「え?」
扉が開いてそこから姿を現したのは、誰であろう〝シュウ女史〟その人だったからだ。
「シュウ様?」
シュウ女史はワゴンの上に乗せた私の朝食を持ってきてくれたのだ。朝食の中身は消化の良いリゾット。それと鶏肉と野菜のコンソメスープ。温かいミルクと、フルーツが少し。いかにも体を温めるためのメニュー内容だった。
「どうやら少し元気が出てきたようだね」
ここがどこなのか察しがついた。
「ここってもしかして水晶宮ですか?」
「ああ、外の病院に入院させて色々と厄介な噂が広がるより、いっそ私のところで療養させた方が良いと思ってね」
「ご配慮ありがとうございます」
「ふふ、正直感謝されるより私の方が謝らなきゃならないんだけどね」
そう語りながら彼女は私が体を横たえているベッドの傍らにベッドサイドテーブルを用意する。その上に朝食のメニューをひとつひとつ乗せていくと大きめのトレーを膝の上に乗せてくれた。
「積もる話はあるけどまずは栄養取らないとね。食べても吐きそうだったら無理はしないでいいからね」
「はい、ご配慮ありがとうございます。でもおかげさまで食欲の方はあるので」
「そうかい、それは良かった」
「せっかくです、お食事をしながらでよろしければこのまま少しお話をさせていただいてよろしいですか?」
「ええ、私は構わないよ。むしろお願いしたいところね」
「それじゃあ失礼して」
こうして私たちの会話が始まった。先に言葉を切り出したのは私だった。
「正直お聞きしますけど、その――ご迷惑おかけしませんでしたか?」
「ふふ、そういうところを気にするのは変わらないねえ」
背もたれ付きの椅子を移動させてくるとそこに腰掛けながらシュウ女史は答えてくれた。
「迷惑も何も、私の方に責任があるからね今回の一件は」
「えっ?」
「あんたのところのギダルムって老傭兵に思いっきり指摘されたよ。〝ルストは今現在自分自身で身を守りきれる状況にあるのか?〟ってね。それを言われて頭から水をかぶせたような気分になった」
「シュウ様――」
シュウ女史は今までにないくらい気落ちしたような顔をしていた。
「妹や娘のように可愛がっていたあんたが私の所に帰ってきた。それだけで満足すればいいものを、ついつい欲をかいちまった。あんたを高級酌婦に仕立て上げて一緒に一晩だけの夢を見よう、そう思ったんだけど――」
そこで彼女は非常に大きくため息をついた。
「あまりにも大きいしっぺ返しを食らってしまった」
そしてまたため息をつく。相当に今回の件が堪えているようだった。シュウ女史は真剣な表情になると私に目を向けてくる。そして冷静な言葉で問いかけてきた
「プリシラ、あんたレイプされかけたんだって?」
明らかに彼女は私の身を案じていた。彼女は言葉を柔らかくすることなくはっきりと尋ねてきた。
「体の貞操は大丈夫だったのかい?」
中途半端な配慮をしないその言葉遣いは今の私にはかえってありがたかった。







