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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第7話:仲間との絆 ―最悪の蹉跌と再起への道―
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燃える船体、凍てつく河水

 炎のリングがプロアの頭上に描かれ、その炎のリングの各部から火炎の弾丸が打ち出されていく。その向かう先は金属矢の打ち込まれた方向だ。暗闇の中への不確かな狙いでの火弾発射だったが、それを補うようにプロアは多くの火弾を連続して射ち放った。


――ボッ!――

――ドンッ!――

――ゴオッ!――


 そのうちの数発が何かに命中する。船内に潜んでいた私からは判然としないが、プロアの様子から見て敵をすべて討ち取ったとは確信が得られないようだ。


「プロア――」


 今彼は私を守りきろうと必死になっているに違いなかった。だが、敵の姿も総数も見えない。その戦闘力の概要も不明。それを一人きりで守ろうというのはそもそもが無理があるのはいなめない。

 そして、敵の得体なさを象徴するような状況が起こる。


「なにっ?」


 彼の驚きの声が聞こえる。


「やばい!」


 敵の攻撃のパターンが更に変わった。

 4つの方向から同時に射ち込まれたのは金属の矢の先端に布を巻きつけ火を灯した〝火矢〟だった。それがナローボートの船体に射ち込まれたのだ。敵はその狙いをこの船そのものへと切り替えたのだ。 


「くそっ!」


 プロアは思わず歯噛みする。船体が放火されて少しずつ燃え上がり始める。プロアを射ち殺すのではなくナローボートに乗せられている私ごと始末してしまおうと考え方を切り替えたのだ。

 つまりは、私の身柄を確保することを断念したのだ。


「奴ら! やりやがった!」


 プロアの言葉からは強い焦りが聞こえてくる。

 このままではいけない。

 私は渾身の力を振り絞りプロアの方へと這いずって行った。


「プ、プロア――」


 全身が重い。鉛のように重い。両腕で全身を支えようとするたびに私はこんなに非力だったのかと絶望したくなるほどに力が入らない。

 だがそれでも私は追いすがった。少しでもこの船から脱出を容易にするためにはこの場所から動かなければならないのだ。


「ルスト!?」

「ま、待ってて! そっちに行く! この船から脱出するわよ!」


 弱り切った身体を無理やり動かすというのは恐ろしく辛いものだ。残りカスのような体の力を振り絞り少しずつ這いずっていくが、あまりの辛さに吐き気が湧いてくる。お腹の底から込み上げるものを飲み込みながら私は少しずつプロアの所へと近付いて行った。


「ルスト! 今行く!」


 なお射ち込まれる矢をいなしながら、プロアは船内へと飛び込んできた。

 手にした武器を素早く巻き取り腰の後ろに収めると私に駆け寄る。


「この船から脱出するぞ! このままでは焼き殺される!」


 そう言うと同時に脱いだジャケットを私に着せて私の体を抱き起こす。 


「俺の首に掴まれ! 水路に飛び込むぞ」

「わかった」

「地上では狙い撃ちにされる。水に浸かりながら敵の攻撃をやり過ごす」


 選択肢はそれしかないだろう。それとて、どこまで敵の攻撃をいなせるか分からない。しかし迷っている暇はなかった。

 プロアは私を抱きかかえながら、ナローボートの甲板を一気に走り抜けた。そして水路へと飛び込んだ。だが今の季節は冬だ。水面が凍りつく一歩手前だ。水は冷え切り恐ろしく冷たい。


――ザブッ!――


 肌を刺すような寒さが私を襲ってくる。プロアのジャケットを借りてはいるが、なにしろ着ているのは薄布のドレス一枚だ。下着は下半身一枚しかなく、実質ほとんど全裸に等しい。プロアもそれは分かっていた。それで今は何よりもこの場所から脱出する方を優先したのだ。


「精術駆動 水流疾駆!」


 プロアが聖句を詠唱して、両足に履いたブーツ型の精術武具を作動させる。地精系の精術武具〝アキレスの羽根〟だ。地の力である重力や慣性を自在に操ることができるのだ。

 その精術武具の力で私の体を水中で支えつつ高速で移動しようとする。


「しっかりつかまってろ。寒いだろうが少しの辛抱だからな」

「わかった」


 私は必死にプロアの体に抱きすがる。

 言葉のやりとりもそこそこにプロアは私を抱いて水中の移動を始めた。敵の正体がはっきりと分からない以上、一刻も早くここから移動して逃れるしかない。

 だが――


――ザザザザッ――


 足早にかけてくる足音がする。それも1つや2つではない。


「誰か来る」

「追い打ちをかけに来やがった!」


 襲撃者は諦めていなかった。なおも私たちを追い詰めようとする。そして私の視界に映ったのは――


黒鎖(ヘイスォ)? でも赤い?」


 いつもの革マスクとは微妙に異なる赤みを帯びた色合いの黒鎖だった。だが、そのシルエットは細く、胸と腰のあたりに微妙なふくよかさがある。それは〝女性〟だったのだ。


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