闇夜の中の鋼矢 ―さらなる襲撃者―
そう言葉を残して彼は後部甲板へと向かう。生き残った船員の1人に声をかけた。
「おい」
「は、はい」
「この船をイベルタルに戻せ。できるな?」
「もちろんです。少しバックさせれば左右が開けたところがあります。そこなら船を回頭させる事ができます」
「よしやってくれ」
「分かりました」
そう答えて後部甲板の船乗りが船を操作しようと歩き出したところあった。
――ヒュッ――
不意にどこからか風切り音がする。それと同時に船乗りのところ首には一本の矢が深々と突き刺さっていた。矢は木製ではなく総金属製だ。それに撃たれた船員は声を発することもなく崩れ落ちる。
「えっ?」
私の驚きの言葉にプロアは裂帛の気合いで叫んだ。
「伏せろ!」
その言葉に私はさらなる事態が起きたことを悟った。
――新たなる襲撃者――
その出現に私だけでなくプロアも危機的状況へと陥ってしまう可能性を私は予感した。
だが――
「ジャケットの内側に念話装置の子機がある。それを持ってここから動くな」
襲撃者を排除する時にプロアが私の体にかけてくれたレザージャケット。その内側に私の握りこぶしより少し大きいくらいの大きさの念話装置があった。以前正規軍で見たことがある、親機と子機が連動するタイプの小隊運用型の念話装置だ。
それと同時にプロアが何をしようとしてるか即座にわかった。
「大丈夫なの?!」
大きく不安の声を唱えればプロアはこともなげに言ってくれた。
「大丈夫だ。今の俺には〝アキレスの羽根〟だけじゃない。お前のお陰で取り返せた〝イフリートの牙〟もある。1対多数の戦闘は下手に介入されると危険なんでな」
そう言いながら彼は腰の後ろに束ねておいたムチ型の武器〝鎖牙剣〟を取り出した。そして彼は私を振り返ってこう告げた。
「いいか? 絶対に動くな」
私はそれに対して頷きながら答えた。
「ご武運を」
その言葉にプロアが右手を軽く振りながら船の外へと出て行く。周囲を林に囲まれた運河水路の途上で彼の思わぬ戦闘は始まったのだ。
私が船内から外側の様子を伺う。
ナローボートの後部甲板でプロアは仁王立ちになり足場を踏み固めた。
それと同時に左の小脇に革ベルトで固定しているナイフ形の精術武具をを抜く。
【銘:イフリートの牙】
【系統:火精火炎系】
【形式:ナイフ型、火精の力を他の武器に付与する効果機能がある、火精系最強クラス】
イフリートの牙は赤黒く艶光りする一本のナイフ、立派な火炎系の精術武具だ。
総金属製の鞭状武器の柄の根本に開いている装填口、そこに赤黒いイフリートの牙を差し込む。
――シャキン!――
小気味良い音を立てながらそれは収まった。
揺れる船の上、その甲板の上でプロアは腰の後ろから取り出した鞭状の武器〝鎖牙剣〟を手にプロアは叫んだ。
「どこに隠れてる!? さっさと姿を現せ!」
その声と同時に周囲の暗闇の中から放たれた鋼鉄製の矢は4本、正確に狙いますましたようにプロアめがけて飛んでくる。だが、プロアはそれに怯むことなく、右手で掴んだ鎖牙剣のグリップを振り回して自らの体の周囲を旋回させるように鎖牙剣を振り回した。
――ブオッ!――
総金属製の鎖牙剣は恐ろしく重い。振り回すだけでも相当な腕力と、それを完璧に制御できるだけの技術が要求される。
それだけの技量を必要とする鎖牙剣をプロアはやすやすと振り回し、飛来してくる金属矢を弾き返す。
――カキィン!――
だが、矢はそれで終わるようなことはない。なおも繰り返し射られ続けた。
ただし今度は一斉ではなく、方向やタイミングや狙う位置を様々に変えながら不規則に射ち始めた。
――ヒュ! ヒュヒュッ! ヒュォッ! ヒュンッ!――
だが、そんな小細工もプロアには通じない。鎖牙剣を握る右手の手首の返す動きも巧みに操って、鎖牙剣のその動きの軌道を様々に変化させ、いかなる方向から矢を射込まれても必ず叩き折るのだ。
――カキィン! バキッ! カァンッ! カキンッ!――
ただの一本たりともプロアの体に刺さりはしない。
それからあとさらに7本ほどの矢が射ち込まれたがそれら全てをプロアは弾き返し叩き割った。
敵の攻撃が一瞬止む。不気味な沈黙が訪れてさらなる警戒を呼び覚ます。
「こっちから攻めるか」
敵が次なる手を打つ前に先んじて攻めるつもりだ。
「精術駆動」
右腕全体を使って鎖牙剣を円を描くように振るう。円を描いた鎖牙剣を根本から火炎が広がり先端へと至る後にプロアが聖句を唱えた。
「火弾散布!」







