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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第7話:仲間との絆 ―最悪の蹉跌と再起への道―
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布袋《ぬのぶくろ》の中のルスト

 (ルスト)の意識はうっすらと、そして途切れ途切れに目覚めては、また無意識の海の中にかき消えようとしていた。


 自分が大きな布袋の中に押し込められて運ばれているのが分かる。

 体に力が入らなくなり立ち上がることすらできない。手足を縛られているというわけでもないのにどうすることもできない。

 先ほど飲んでしまったあの水の中に何かが仕込んであったのだ――


 自分の体の揺れ方から判断して、おそらくは馬車の上に乗せられているのだろう。それもおそらく荷馬車だ。かなりの速度でイベルタルの街の外へと向けて連れ去られているのだ。


 失態などという言葉では済まない。

 最悪、このまま命を奪われるかもしれない。

 なんとか自力で脱出を試みるが、この布袋から出ることすら叶わない状態だった。


 何があった? 何を飲まされた?

 あの水の中に薬物が仕込まれていたのは間違いない。そしておそらくは痺れ薬か、極端な血圧低下を引き起こす成分が入れられていたのだろう。

 恐ろしく薬物に詳しい人間が関わっているに違いなかった。それだけの組織が関わっている可能性もある。そしておそらくは〝黒鎖(ヘイスォ)


「うっ?!」


 不意に私は布袋ごと持ち上げられた。無論走っているそのままだ。


「何? 私をどうするの?」


 そう声を出すがその声を聞いている者は誰もいない。そして、私の体はそのまま大きく放り投げられた。


「きゃぁ!」


 思わず大きな叫び声が漏れる。突然の落ちていく感覚と共に恐怖が湧いてくる。私の体は何者かに受け止められてさらに運ばれていく。


「誰? ここはどこ?!」


 声を出してみるが反応はない。何より布袋の入り口が開けられる素振りすらない。

 揺れている。これは地面の上を走っている揺れ方ではない。これはそう、船の上だ。水の上で船が揺れている揺れ方だ。馬車から船へと移されたのだ。

 これでいよいよ、助かる可能性はさらに薄くなったと言っていい。


「誰かが、私に気づいて追跡してくれてるといいのだけど」


 拉致犯もその辺りを見越しているに違いない。だからこそ、荷馬車から船へと私を移したのだ。私に気づいて声かけてくれている人がいるすれば、この船への移し変えに気づかず未だに荷馬車を追いかけている可能性もある。そうなれば万事休すだ。


 それにそもそも私はどうなるのだろう?

 殺されるか、あるいはこのまま監禁される。最悪、国の外に連れ出される恐れもある。

 私を拉致した犯人が黒鎖(ヘイスォ)だとしたら、その目的は明らかに私への報復だろう。あれだけ散々に組織を叩いたのだ。相当な恨みをかっていたとしても不思議ではない。

 あっさり殺すだけでは飽き足らないと思っているに違いない。そうでなければこの状況で私を生かしているわけがないからだ。


 そして私を待っているのはおそらくは〝陵辱〟――


 その予感に考えが到達したとき私の全身を耐えがたい悪寒が貫いていた。あまりの気持ち悪さに吐きそうになる。だが私はそれをぐっとこらえた。絶望に自分のすべてを投げ出してしまいそうになると思ったからだ。


「大丈夫。助けは必ずきっと来る」


 私はあえて声に出した。その言葉に根拠があったわけではない。ただあの優秀な仲間たちだ。このまま指を加えて私の行動を傍観しているわけがない。私のことを案じて何らかの行動を起こしているに違いないのだ。

 

 イリーザの仲間たち。

 彼らは私にただ盲目的に服従しているわけではない。私を信用し信頼して私をリーダーとして認めてくれているからともに行動しているのだ。

 だからこそ彼らは自分の意思を持っている。必要とあれば私の思惑を超えて、独断行動を率先して取ってくれる。私はそれを遮ったことは一度もない。彼らの判断と行動はいつも私の考えを大きく超えているからだ。


 人は複数の視点を持つことは容易ではない。だからこそ第三者の視点が必要になる。私が仲間との一緒の行動を重要視するのはそこに理由がある。そしてそれを重要視するからこそ、多くの成果と成功があるのだ。


 私は両手の指を組み合わせるようにしてぐっと握りしめた。そして運命の精霊に祈りを捧げた。


――この窮地から、救われますように――


 その時だった。

 布袋がどこかへと運ばれる。おそらくは船の中だろう。状況から言って運河水路用のナローボートだろう。荷物運搬用とかに使われているものに違いない。

 そして、私を閉じ込めていた布袋の入り口が緩められた。そこから、大の男の屈強な2本の腕が入れられて、私の体を捕まえると布袋の中から引きずり出される。

 途切れそうになる意識の中で、必死に周囲の状況を確かめれば。そこに私を待っていたのは絶望的な光景だったのだ。

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