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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第1話:特別幕:軍外郭特殊部隊イリーザ、強制制圧作戦
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集まる情報と突入時刻

 足音は聞こえていなかった。

 ただ、気配だけを感じて、その方を振り向けば、私と大差ない年齢の青年が佇んでいる。ファー付きの防寒ジャケットに厚手のカシミアのマフラー、頭には額のあたりにバンダナを巻いている。髪は金髪で目は青。

 隙のない鋭い視線が特徴的だった。


――ルプロア・バーカック――

 二つ名は〝忍び笑いのプロア〟

 偵察と斥候の名人、闇社会に居たこともあり暗殺もお手のものだ。

 私は彼の名を呼んだ。同じ職業傭兵に対しては名前と階級で呼ぶのがセオリだ。


「ルプロア準1級」

「隊長、今戻った。ゴアズに同行しての制圧対象施設の接近調査、結果が出たぞ」


 ゴアズとは私の別の仲間の名前だ。彼もまた精術武具の所有者だ。


「報告お願いします」

「了解、

 敵のアジトと思われる建物に接近して、ゴアズの所有する精術武具を使用して〝人間の心拍〟の存在を探査した。その結果、地上階に複数、半地下階に少数の心拍を探知した」

「やっぱり」


 ゴアズは音を操る精術武具を保有している。それを生かして離れた場所の人間の心拍を突き止めることも可能なのだ。だがプロアは私のつぶやきを遮る。


「だが、さらにもう一つ見つかった」

「もう一つ?」

「半地下階の更に下に隠された地下階がある事がわかった。そしてそこに最低でも10名以上の人間の心拍を感知したそうだ」


 プロアが報告を終えたとき、もう一人、初老の男性が落ち着いた声で問いかけてくる。単眼鏡(モノクル)を左目にかけた洒落男だ。


「ルスト隊長、たしか、あの建物は地上2階に半地下階ってはずだったな?」

「えぇ、私が事前調査で閲覧した書類では、不動産の登記書類にはそう記されていました。ギダルム準1級」


――ギダルム・ジーバス――

 二つ名は〝鉄車輪ダルム〟

 年の頃は60過ぎ。オールバックにかっちりとまとめあげた白髪の髪がよく目立つ。軍服っぽい仕立ての三角襟のジャケットに、左目にはめた単眼鏡(モノクル)がトレードマークだ。

 彼はその右肩に巨大な戦鎚を担いでおり、それを地面へとおろす。

 彼の所有するゴツくて迫力ある武器とは裏腹に、その語り口は穏やかで柔らかい。加えて、元執事と言うキャリアから情報の把握や整理は手慣れたものだった。

 私がダルム老の言葉に返した返事を聞いてプロアは発言する。


「不法に地下を掘り起こしたか、もともと隠し部屋を地下に設けていたかだな。どっちにしろ真っ黒だ」


 その語りに、ダルム老が同意する。


「あぁ、そうだな。建物が出来上がってから地下を掘り下げるより、偽装しながら最初から地下を掘っておいたほうが楽なはずだ。始めっから悪用する気だったんだろう」

「密輸目的でか?」


 そうプロアがのたまう。そこに私が答えた。


「私が思うに、密輸とは限りませんが、現在の彼らが占拠する以前から、密輸や不法備蓄などのために設けられていたと考えるべきです」

「それを今回の連中が何らかの手段で手に入れたってわけだな」

「それが妥当でしょう。ですが、どのような改造が施されているか分かりません」

「要注意だな」


 そこにダルムが助言してくれた。


「隊長、突入時に地下階の存在を意識するように通達しよう」

「えぇ、そうしましょう」


 私たちの会話は結論を得た。


 そもそも、私たちは軍人ではない。

 この国では〝職業傭兵〟と呼ばれている傭兵だ。

 国家が決めた決まりに基づき契約し任務を負う。それが〝職業傭兵〟だ。


 私、エルスト・ターナーもそんな職業傭兵の一人だ。

 階級は特級、二つ名は〝旋風のルスト〟と言う。


 普段なら正規軍の指揮下で任務に服従するのが職業傭兵なのだが、私たち8人は特別だ。

 そんなわたしたちに同行している通信師が、念話装置から入感した念話を私へと中継してくれた。


『ルスト隊長』

『バルバロン1級、どうしました?』


 私は声の主の名前を呼ぶ。極めて落ち着いた声が帰ってくる。


『施設に動きがあります。内部から数人、周囲警戒のためと思われる者たちが出てきました』


 バロンは狙撃手だ、ここから少し離れた針葉樹の大木の樹上から現在状況を俯瞰で見下ろしている。擬装(ギリー)を施して身を隠している。


『動いたわね。こちらから指示あるまで監視を続けてください』

『了解』


 そこにさらなる報告が入る。


『報告、街道筋監視第1地点』

『話しなさい』

『3人ほどの集団がそちらへと向かっています。その中の約1名、事前調査で身元が判明している組織の構成員が確認できました』

『誰ですか?』

『デルファイ・ニコレット、密輸ブローカーのベテランで逮捕歴あり、組織のナンバー3です』

『ご苦労様です。監視を続行してください』


 本命登場、これで間違いない。私は確信を声に出して呟いた。


「当たりだわ」


 その一言にプロアが訊ねてくる。


「どうした?」

「組織のナンバー3の男が近づいてきているわ。〝あそこ〟に私たちが想定している組織があることは間違いないわね」

「それじゃあ」

「突入を決行します。各自行動準備に入ってください」


 私がそう宣言すれば、周囲にいた者たちすべてが急速に剣呑さを増していく。私も愛用の武器を腰のベルトから抜いて右手でしっかりと握った。

 そしてさらにタイミングよく次の知らせが入ってくる。


『こちら第2監視地点、3名の集団が表街道から脇道へと入ってきました』

『ご苦労、監視をそのまま続行してください』


 その声と同時に組織のナンバー3が私たちの目の前を通り過ぎ建物の中へと入っていく。これであの倉庫の建物が彼らの拠点であることか確定した。


 そして私はそれらの情報を得て最終判断を下した。通信師に全員に私の声を中継で届けさせる。


『最終判断です。突入を決行します。各自準備に入ってください』


 私は言う。


『本日時刻、23時45分(フタサンヨンゴー)で突入を敢行します』


 具体的な数字が示されたことで、息を殺し気配を潜めている状況から、いつでも交戦可能な臨戦態勢の空気へと、場の空気が一気に変わった。

 作戦行動領域の各所に配置されているそれぞれの人員に私は指示を飛ばしたのだ。


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