チハヤとパック、逃走する馬車を追う
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■読者様キャラ化企画、参加キャラ■
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ちやはれいめい様【チハヤ・マテニージョ】
そして再び、大星楼の地上裏側物資搬入口、そこに佇むカークとゴアズのもとに念話通信が入った。
『はい、こちらゴアズ』
『リサです。プロアさんからアーヴィンと言う方の協力で追跡用の足の確保ができたと連絡がありました。今からその方が迎えに来られるそうです』
『了解このまま待機します』
『お願いします』
念話を切りカークに告げる。
「足の確保ができたそうです」
「おお、それはありがたい」
「今からこちらに迎えに来るそうですが――」
とその時だった。
「おお! 居た居た」
力強い合法だ声がする。声のする方を振り向けばそこにいたのは2頭立ての無蓋馬車、構造はシンプルだが軽量ゆえに速度を出しやすいものだった。
「あんたたちか!? 拉致犯を捉えるのに馬が必要だったのは?」
その問いかけにゴアズが答えた。
「はい、アーヴィンという方の紹介でお待ちしておりました」
アーヴィンの名前が決め手になった。
「やっぱりそうか。俺はチハヤ・マニティージョ、馬車運送業をしている」
自ら名乗ってきたのは日に焼けた肌のいかにも腕っぷしの強そうな男だった。革ズボンに袖なしの丸首シャツ、その上に革ジャケットを着込んでいる。黒髪を後頭部で束ねており。その上にさらに赤いバンダナを巻いている。足に履いたのは乗馬用のブーツ。その他におそらくは護身用だろう。右腰に太いナイフを手挟んでいた。
「職業傭兵のガルゴアズ・ダンロックです。隣にいるのはダルカーク・ゲーセット。ご協力よろしくお願いします」
「おう! それじゃ早速乗ってくれ」
「はい」
挨拶を終えて早々に馬車に乗り込む。それと同時にゴアズに念話が送られた。
『ゴアズさん! 逃走車両は東西主要街道を西へと走っているそうです。これからも順次、追跡情報を送ります』
『了解です』
ゴアズはチハヤに告げた。
「追跡情報あり。逃走者は北部東西街道を西へと向かってます」
「よしわかった。飛ばすからしっかり捕まってろ!」
言うが早いか、チハヤは馬車を走らせる。馬の背中に鞭を入れ喝を入れた。
「ハイヤァアアア!」
――ヒヒィィン!――
速度重視の2頭立て、馬はいなないて即座に走り出す。手綱さばきも見事に馬車は一路、主要街道を目指して西へと向かったのだった。
† † †
そしてこちらは馬車を軽身功で追い続けるパック、周囲から見てその異様とも思える移動速度は確実に逃走する馬車を追い詰めていた。
拉致犯が駆る馬車は速度の出やすい軽量の無蓋の荷物運搬用馬車だ。パックが追いすがるには困難を極めた。
「なんと速い馬車だ! 馭者はかなりの技術を持っている!」
そう吐き漏らすパックは、東方武術の特殊技巧のひとつである軽身功を駆使していた。普段の鍛錬に加え、体内呼吸と全身の力の発動を制御することで、歩行移動の速度を飛躍的に向上させることができる。ただし、その力の発動には普段からの鍛錬の継続が極めて重要になる。
その点においてパックは怠りはなかった。
馬車は花街から南下して主要東西街道に出る。そして、西へと右に折れる。大通りをさらに速度を上げて走り続けた。
パックはそれを正確に追い続けた。なんとか馬車を捕まえて停めようと試みる。だが――
「くそっ!」
馬車からゴミの詰められた布袋が投げつけられた。かなりの大きさの物だが、パックはそれを軽く蹴り飛ばす。大したダメージはないが、その間に追跡する馬車からはさらに引き離される。相手はそれが狙いなのだ。
「荷台にゴミを乗せているのはこれが目的か!」
追跡するものが現れた時にこれを妨害する道具とするために荷台にゴミを乗せているのだ。
「手馴れている! 普段から同じことを繰り返しているのか?」
パックの読みはおそらくは正解だろう。拉致や誘拐を得意としている裏の社会の住人なのは間違いない。
「そうはさせるか!」
パックはさらに奮起した。意識を集中させて速度をさらに上げる。一度は離された距離を一気に縮める。逃走馬車と距離をさらに縮めた時だ。
「うっ!」
馬車の上から後方へと何かが撒かれた。鉄でできた三角形の突起物――〝撒菱〟だ。誤って踏んでしまえば追跡は困難になる。必死に目を凝らして撒菱の手薄なところを見つけ、そこを足がかりに一気に通り抜ける。
撒菱を一気に乗り越えたパックに馬車上の男達は驚きの顔を浮かべていた。そしてその時だパックの頭上はるかを数条の火矢が飛んでいた。
「あれは! バロンの!」
地上と空、2つの視点で追跡を続ければ必ずや捉えられるだろう。馬車を停止させる決め手がない現状では別の手段での追跡が必要になる。それは仲間たちの行動に期待するより他はないだろう。それまでは絶対に離れないことが重要になるのだ。
「絶対に逃しません!」
改めて気合いを入れる。パックの軽身功は移動速度もさることながら、その継続時間も人並み外れたものだった。今はただ、馬車の追跡に全意識を集中させていた。







