大星楼裏手、物資搬入口の遭遇
そして再び地上側、2つに分かれて展開しているそのそれぞれで動きがあった。
大星楼の裏側付近、分散して物陰から様子を窺っているゴアズたちだったが、周囲を迂回するようにしてドルスが現れた。
「ゴアズ、俺もこっちに合流させてくれ」
「ドルスさん?」
「バロンは別の建物の屋上に向かった。高いところから精術武具を使って広範囲の監視に備えるつもりらしい」
弓狙撃手であるバロンは彼しか扱いきれない特殊な精術武具を所有している。火精と風精の二重属性を持つ弓型の精術武具〝ベンヌの双角〟だ。
「そうか、彼の武器だったら広範囲に監視の目を広げることができますね」
「ああ、そうなると俺は着いて行くとかえって足手まといになるからな」
「わかりました。協力お願いします」
「おう」
するとその時だ。ドルスは大星楼の建物の裏側の物資搬入口から出て行く1台の荷物馬車に視線を向けた。
「ん?」
「どうしました? ドルスさん」
「あれを見ろ」
「えっ?」
ドルスが指差す先には1台の荷物馬車が出発準備を終えていた。その荷台にあるのは薄汚れた大きめの布袋で廃棄物や生ゴミが入れられている。そんな袋が数多く積まれている。だがそこに1つおかしな点があった。
「ゴミ出しの馬車ですね」
「そうだ、ゴミ出しだ。だがなんでゴミ出しの馬車に高級飲み屋の給仕役が乗ってるんだ? しかも仕事用の衣装のままで」
「そういえば確かに」
「明らかにおかしい。声をかけて見るぞ」
「はい」
ゴアズとドルスのやり取りを近場で聞いていたパックとカークも頷いて彼らに同行しようとしていた。
ドルスは万が一を考えて腰裏に忍ばせたリボルバー拳銃に右手を添えていた。
先んじてゴアズがゴミ出し馬車に声をかけようとする。
「あのすいません。ちょっといいですか?」
ゴアズが控えめに声をかけようとしたその時だった。
馬車の座席で手綱を握っていた男がゴアズの顔を見てハッとした表情となった。その反応にゴアズも何かに気づく。
「お前は?!」
その顔には見覚えがあった。かつてのイリーザ部隊の制圧任務の1つ。南部都市モントープのとある密売組織の壊滅作戦で見かけた顔だった。当然ながら向こうもゴアズの事を記憶していたのだ。
「ハイヤァ!」
いきなり馬車鞭をふるい馬をけしかける。
――ヒヒィィン!――
雄叫びをあげて馬が駆け出し馬車は走り出した。とっさの判断でドルスは腰裏に隠しておいたリボルバー拳銃を引き抜き馬車の車輪を狙う。
――ダァアン!――
鉛弾が撃ち出される音が響いて、弾丸は馬車の後部車輪の外周に嵌められた鉄輪に弾かれて火花を散らした。
――ギィイン!――
ドルスは慌てて追いかけようとする。
「くそっ! 待ちやがれ!」
2発目を撃とうとしたが周囲の人々を巻き込む可能性があるのでさすがに諦めた。その傍らではゴアズがリサの同報念話を受信しているところだった。
「なんだって?!――ゴアズ、了解です」
そのゴアズの声に他の連中も異変を感じていた。カークが尋ねる。
「おい、どうした?」
「大変なことになりました。ルスト隊長が拉致されました!」
「なんだと?!」
「3階からダストシュートの穴を通じて連れ出されたそうです!」
パックも先ほどの馬車の動きに事の真相に気づいていた。
「それでは先ほどの荷馬車が!」
「おそらくあれに乗せられていたはずです! 申し訳ない! 私が軽率に声をかけたばかりに」
だが、その言葉を遮ったのはドルスだ。
「言い訳はいい! 次の行動に移るぞ! パック! 軽身功で馬車を追え! カークは移動手段の馬の確保! ゴアズはバロンに荷馬車とパックを追うように伝達だ! 俺はプロアに合流する! 行け!」
現在の事態に対する次善の策を即座に判断した。
パックは返事もせずにその場から飛び出し、超人的な速さで荷馬車を追い始めた。
カークはその場に合わせた他の馬車の持ち主に掛け合っている。
ゴアズは冷静さを取り戻してバロンに連絡をとる。
『こちらゴアズ』
『リサです』
『バロンに伝達、大星楼裏手から逃亡した荷馬車を追跡、荷馬車をパックが追っていますのでそれを目印にしてください』
『了解、伝達します』
すると念話を終えたところにカークが戻ってきた。その表情は浮かないものだった。馬は提供してもらえなかったようだ。
「だめだ、まともに取り合ってもらえん。まあ、当然といえば当然なんだがな」
「そうですか。逃走した馬車の追跡には足の確保は必須なんですが」
「俺たちはあくまでもここに個人資格で来ている。馬を無理に徴用して後から問題になったら自分で墓穴を掘ることになるからな」
「そうですね」
ゴアズは思案げな顔で念話を飛ばす。
『こちらゴアズ』
『リサです』
『移動用の足の確保が必要です。全体通達で要請してください』
『了解、直ちに要請します』
『お願いします』
念話を終えてカークに語る。
「これで後は誰かが交渉してくれるのを待つしかありません」
「そうだな」
2人は焦る気持ちを抱えながらそこで待つしかなかったのだ。







