花街の建築物《大星楼》と、監視する6人たち
交渉成立――、
その知らせはリサの念話管理を経由して一斉に伝えられた。
『俺だ、ダルムだ』
『こちらリサです』
『全員に伝えてくれ。シュウ・ヴェリタス女史との交渉が成功した。〝高級酌婦〟としてのお勤めが無事に済むように周囲警戒を認めてもらうことで提携が結ばれた。ちなみにルストが派遣されている店舗は、大星楼の3階にある〝高級酒房・銀虹亭〟だ。ただし接触相手となっている人物たちが非常に厄介な連中なので直接的な介入は避けて欲しいとのことだ』
『了解しました。皆さんにお伝えいたします』
そしてこの話は全員へ一斉通報された。
その知らせを受け取る頃、ダルムを除く残り6人は東5番丁の入り口から脇路地へと少し入ったところに移動していた。馬車の通らない少し薄暗い裏通路に6人は集まっていた。
彼らの位置から大星楼の建物が見えている。石造りの堅牢な4階建ての建物。内部の店の特性上、ガラス窓は決して多くなく屋内の換気用に設けられているのみだ。プロアが予備知識として説明していた。
「この界隈の建物としては比較的大きい方だ。4階建てで中に4つの店が入っている。ルストが入っているのは3階の〝銀虹亭〟と言う店だ」
ドルスが尋ねてくる。
「1フロア、まるまる使い切りか」
「ああ、元々かなり格の高い店らしい。基本的に富裕商人御用達の店だとよ」
「出入りするルートは?」
「正面入り口の通路から入る来店客用の表階段ルートと、店員や契約している酌婦が用いる裏階段ルートがある。どっちを使って出てくるかはその時になってみないと分からん」
するとそこにパックが助言を加えた。
「単純に考えて表の出入り口と裏の出入り口の2つしかありません。我々を2つに分けて監視するしかないのでは?」
それに答えたのはプロアだった。
「それが妥当だろうな。俺は建物の屋上階から様子を伺う。カークのおっさんはパック辺りと行動をともにしてくれ」
「わかった」
そしてさらにドルスが指示を下す。
「よし残りを2つに分けよう。ゴアズ、パック、カークの裏側組と、バロン、俺の表側組だ。何かあれば念話装置で連絡を取り合う。くれぐれも目立たないように注意してくれ。いいな?」
ドルスの言葉に全員が頷いた。
「よし行くぞ」
その言葉を合図に全員が一斉に行動を開始した。周辺監視の始まりである。
それからしばらくの間はおとなしく時間が過ぎていった。
ルストがプリシラとして高級酌婦の振る舞いに徹していた時間だった。
プロアは建物の屋上から内部の様子を伺っていたが、4階フロアへと侵入して建物の中の様子を探っていた。
「建物の中央から少し手前方向にずれた位置に表階段があり、反対に裏側の一番奥に裏階段があるのか。そして裏階段から従業員用通路にアプローチするわけか」
おそらく何か問題が起きれば裏階段側で動きがあるだろう。プロアは報告する。
『俺だ。プロアだ』
『こちら、リサです』
『監視位置を屋上から裏階段4階付近に移動する。建物内部の様子を探ることにする』
『了解です、他の方達にも伝達します』
そしてさらに建物表側、バロン・ドルス組、
建物正面の表通り沿いの少し離れた人の物陰から2人は様子をうかがっていた。
ドルスがバロンに告げる。
「今のところ、普通の酔客以外には目立った動きはないな」
「ええ、このような状況だと、もし何かがあるとすれば内部で何かが起きた時でしょう」
「ああ、表側にはそう簡単には異変は起きないだろうが、何かあればその時は臨機応変に行動するしかないな」
「そうですね――っと、はい了解しました」
バロンが念話の受信を受けていた。その時漏らした言葉にドルスは問いかけだ。
「どうした何かあったか?」
「はい、プロアが監視位置を建物内部に移動させたようです。裏階段を通じて3階と4階の間付近で様子を伺うと」
「妥当だな。屋上からじゃ建物の中の様子は伺えないからな。アイツなら店側の連中に悟られることなく監視の目を光らせてくれるだろうぜ」
「そうでしょうね。お?」
「どうした?」
「あれは一体?」
バロンが指差す先には貨物運送用の荷馬車が大手通から脇路地へと入ろうとしているところだった。おそらく建物裏側へと向かうようだった。







