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交渉人ダルムⅤ ―ダルム語る、傭兵ルストの足取り―

 驚愕の表情のシュウが問いかけてくる。


「どういうことですか?」


 ダルムはシュウとの交渉にその点において勝機を見い出した。対人的な交渉において最も重要なのはお互いの気持ちと気持ちが通じ合う〝共通項〟を見つけ出すことだからだ。

 それは、元執事という経歴を持つダルムにとって、彼が対人交渉する際の基本中の基本としていた事でもあるのだ。

 ダルムは静かに笑みを浮かべながら、自らの打ち明け話を始めた。


「あの子は、ルストは冬山での遭難の後に、ある場所で別人の戸籍を手に入れることに成功しました。そして、その人物の名前が〝エルスト・ターナー〟」


 その事はシュウもよく承知していた。頷く彼女にダルムは続ける。


「エルスト・ターナーの名前で職業傭兵として登録すると傭兵としての仕事を始めた。あいつは軍学校で学んだ経験があるから戦闘に対する基本のイロハは身につけていたが、それでも軍人と傭兵では物事に対する考えや仕事上の流儀が天と地ほどの開きがある。なかなか仕事を得られなくて食い詰めて色々な傭兵の街を転々としていたが、ブレンデッドの傭兵ギルドの詰所にあいつが現れた時に俺と初めて出会ったんです」

「それがあの子との初めての出会い?」


 ダルムは昔を懐かしむような憂いの表情を浮かべながら語り続けた。


「ええ、大の大人に混じって必死の仕事探し。しかし経歴もない、信頼のおける仲間もいない当時のあいつでは仕事を掴むのは難しかった。苦労に苦労を重ねているその姿に見かねてついついお節介をしちまった。自分のコネで仕事を分けてやったり、小柄なアイツの体に見合った戦闘方法を教授したり、ブレンデッドの傭兵ギルドの支部長に紹介して特別に目をかけてもらったり、そんなことしながらあっという間に半年以上の歳月が流れた」

「戦闘方法まで?」

「ええ、あいつはフェンデリオルの伝統的武器である戦杖(スタム)を愛用しているんですが、私が得意としている武器は大型の戦縋(ウォーハンマー)でしてね、戦い方の基本が共通している。なので私が身につけた戦闘方法を彼女に伝授してやりました」


 そして、シュウはつぶやく。


「ではあなたはあの子の戦闘術の師匠?」

「そうですねあの子自身はそう思ってるでしょう。もっとも私はおせっかいをしただけですのでそうは思っていませんが」


 苦笑しながらもダルムは言葉を続けた。


「そしてついに、アイツは歴史に残る大きい功績をぶち上げる」


 その言葉にシュウは思わず身を乗り出していた。


「それはいったい?」

「17歳にして職業傭兵の2級資格を取得したんですよ。これは当時の最年少記録。そしてこの記録はいまだに破られていません。そしてそこからあいつの快進撃が始まった。若い女性の単独だから仕事にあぶれやすいのは相変わらずだったが、1度仕事を与えられると必ずでかい成績をつかんできた。そしてついにあの事件が訪れた」

「あの事件?」


 その傍らでアシュレイがつぶやく。


「ワルアイユ動乱ですね?」

「ええ、その通りです。西方国境の哨戒任務。本来は別な人間が隊長役を担うはずだったんだが、事務上の手続きの間違いでアイツがそれを背負うこととなった。哨戒任務を成功に収め、次に与えられたワルアイユ視察、そしてそこで巨大な敵の策略に嵌められ窮地に陥るも、ワルアイユの市民義勇兵と正規軍人と職業傭兵の集団を1つにまとめあげ、国境を越えてきたトルネデアスの侵略軍を撃退することに成功した。国を守ったあいつは一躍英雄として世間の人々に知られることとなった」


 シュウはうなずきながら言葉を添えた。


「そして、ご実家との問題を解決して親御さんのもとへと帰ったのですね?」

「そうです。もっともその際にはあの子の父親との軋轢が色々あったようですが、それも彼女自身の頑張りがきっかけとなり解決に至りました。そして、職業傭兵として最高位である特級の資格を与えられ、新部隊の隊長に任ぜられて現在に至っています」

「そうですか、それは聞けて安心しました」


 ダルムは、心から安堵した表情シュウ女史に彼女の本音を見たような気がした。ダルムは話の流れを元へと戻した。


「それで話を戻させて頂きますが、彼女があなたの夢というのはどういう意味でしょう?」


 そう問われて物憂げな表情でシュウはこないだ。


「それについてですが、私にとって綺羅星のような宝石だったあの子に私の理想の夜の街の女の姿を見たんです。今までに何人もの高級娼婦や高級酌婦を育ててきました。そのいずれも満足という言葉を使うには今一歩足りない素材ばかり。ですが、3年前にあの子を拾って保護して、いくつかの雑用の仕事をやらせた時に、その優れた才能の片鱗を見つけました。そしてこう思ったんです。【この子を育てあげてみたい】と――」


 そう語るシュウの目は真剣だった。


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