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交渉人ダルムⅠ ―接触の切り札―

 次に動いたのは、イリーザの中で最高齢のダルム老だった。

 彼に与えられた行動目的は――


「さて、女帝様にどうやってお目通りを願うか? だな」


 イベルタルの最重鎮、シュウ・ヴェリタス女史への接触である。

 ルストを至宝馬車で送った後、そう時間もかからずに戻ってきた。水晶宮の中に滞在していることを確かめた上でダルムは行動を開始した。


 彼の着衣は、ボタンシャツにダブルボタンの革チョッキ、さらにその上にスリムなルックスになるスペンサージャケットを身につけていた。頭には丈の低いシルクハットをかぶっている。襟元はクラバットではなくネッカチーフ。腰から下にはズボンをはき、革製のショートブーツを履いていた。

 これに加えて左目には愛用の片眼鏡が嵌められていた。


「美的感覚にやかましい御仁のようだからな」


 イベルタルに来る際に世話になったとある候族領主に付き添う形での馬車行だったため、この正装姿をしていたのだ。旧来然としたルタンゴトコートに|三角帽〝トリコルヌ〟姿ではなく、丈の低いシルクハットにスペンサージャケットを選んだのはダルムなりの美的感覚ゆえだ。防寒用のダブルボタンのロングコートも忘れていなかった。

 左手にはステッキを握り、手袋をはめることも抜かりない。

 なにしろ相手の格が格だ。手抜かりは許されないということをダルムは分かっていた。

 身に付けるものは揃えた。後は肩書きだ。


「下手にコネを使うより、ここは正攻法で行くか」


 右手でシルクハットのかぶり方を調整するとニヤリと笑って歩き出す。

 ちょうど流しの辻馬車から降りた所だ。彼の眼前にはあの光の楼閣である〝水晶宮〟がそびえ立っていた。


「さて、まずは〝守衛〟だ」


 ボディガードとして入り口でしっかりと外敵を排除する役目をしているのが守衛だ。無論その役目をする者はこの水晶宮にも存在する。

 ダルムは建物正面入り口のロータリーを静かに歩みながらフラックコート姿の守衛へと歩み寄っていく。突然現れた初老の男性に対して水晶宮の守衛の男性は明らかに警戒していた。

 接近しきる前に声がかけられた。


「申し訳ございませんがどちら様でしょうか?」


 当然の言葉だった。守衛と言うのは体力もさることながら頭の回転も要求される。その建物にやってくる人物1人1人に対してその人柄や想定される職業、あるいは危険な人物でないか、などなど様々な事を即座に判断する必要があるためだ。

 守衛の彼はその左腰に下げている牙剣に手をかけながらドルスに視線を向けている。それに対してドルスは落ち着いた低い声ではっきりと告げた。


「失礼、こちらでプリシラ嬢として活躍してらっしゃるとある女性に関して重要な情報をこちらの主人にお伝えしたいと思いまして」


 そう言いながら懐の中から、銀の鎖で腰に繋いだ小さな金属のプレートを差し出した。職業傭兵に与えられる認識票である。それを目の当たりにした時に守衛はわずかに沈黙した。対応を深く思案したのだ。そして彼は結論を出した。


「詳しいお話は建物の中でお聞きいたします。どうぞこちらへ」


 そう答えながら入り口の分厚いドアを開いてくれた。

 こちらの素性を察してくれた守衛にダルムは感謝した。


「ご配慮いただき感謝いたします」


 礼の言葉を述べると招かれるままに邸宅内へと入っていく。入口エントランスの中央で再び声をかけられた。


「こちらにてお待ちください」


 守衛はそう言い残し邸宅奥へと姿を消す。そして入れ替わりに姿を現したのは燕尾服姿の美形の執事、シュウ女史の右腕のアシュレイだった。

 アシュレイは毅然とした態度のまま、静かに歩み寄りながら声をかけてくる。明らかに警戒しているのが分かる。


「失礼、どちら様でしょうか? 訪問予約(アポイントメント)はお持ちで?」


 そう問いかけられてダルムは焦ることなく、シルクハットを脱ぎつつ姿勢を乱すことなく自らの名前を述べた。


「突然の訪問失礼いたします。(それがし)、ギダルム・ジーバスと申します。火急の用件にてこちらのお屋敷のご主人にお目通り願いたいと思いまして」


 だがその言葉にアシュレイは言い返した。


「ご予約の無い方は原則としてお断りしております」


 当然の返事だった。だがこれでおとなしく引き下がってしまったら、訪問した意味はない。しかしながらダルムにはこの程度の反応は想定済みだった。アシュレイの方が興味を示さざるを得ない切り札を持っていたのだ。

 ダルムはその〝切り札〟を口にした。


「では、こちらのご主人にこうお伝えください――


『この国で最も高貴な女性の臣下があなた様にある情報を提供する用意がある』と――」


 〝この国で最も高貴な女性〟――その言葉にアシュレイは密かに反応していた。表情がほんのわずかに変化したことをダルムは見逃さなかった。


「いかがでしょうか?」


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