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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第6話:北の街イベルタルにて(後編) ―ルスト、夜の潜入調査任務―
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高級酌婦《ガストアミーノ》ⅩⅩⅢ ―明るく語らう商人たちと、ルストの質問―

 それからは楽しい笑い声のある宴席が繰り広げられた。イヤミの言葉が聞こえる事も、体に悪戯をされることもない。お客と酌婦、対等な立場でお酒をたしなむ席が続いたのだ。

 お互いのわだかまりが消えてしまえば、本当の人柄というのも見えてくる。

 アルシドさんもニルセンさんも理性的な話し方をする人で、頭の回転が速い分、会話にユーモアやエスプリを交える余裕すらあった。

 アーヴィンさんは酒が進むと話上戸で自らの海賊時代の様々な出来事を語って聞かせる余裕すらあった。それを落ち着いた雰囲気で耳を傾けては相槌を打つのがカルロさんにレグノさんだった。


「ウミガメを食べるんですか?」

「ああ、船の上で食料が足りなくなると暇なやつに魚を釣らせるんだが、それよりもウミガメの方が捕まえやすくて肉もたっぷり取れるんだ」

「ええっ? そもそもどこを食べるんですか? 食べるとこなんてあるのかしら?」

「肉も取れるが、その他に食べるのは甲羅だな。熱を加えて酒と一緒に炒めるんだ。後は体の中にゼラチンのような部分があるんだが亀ゼリーと言って黒糖のような甘味があるんだ。もっとも船の上ではそこまで丁寧に料理はできねえがな」


 そこにニルセンさんが口を挟む


「そういえばウミガメを食材として料理を提供する店がイベルタルのどこかにあったな」

「もしかして東方人の居住区のあたりか?」

「いやそちらではない。街道沿いの東部商業地区だ。大通りから一本裏路地に入ったところに無国籍の創作料理の店がある。港町や船乗りの料理を意識しているようだな。亀肉を生で食したり、ステーキやスープなどもあるようだな」

「ほう? それはいい。今度行ってみるか。一緒にどうだ」


 アーヴィンさんが気前よく店の女たちに声をかける。

 レベッカが喜んで答える。


「えっ? いいんですか?」

「ああ、お前らが嫌じゃなければな」

「行きたいです!」


 他の女の子たちもまんざらでもなさそうだ。初めの頃の剣呑な空気はどこへやら。今ではすっかりみんなで打ち解けて話に花が咲いていた。

 笑い声が続く中、気心が知れあったところを狙って私はあることを問いかけた。この場所に来た本当の理由のために。


「申し訳ありませんが、少々お聞きしたい事があるんです。ご質問させていただいてよろしいでしょうか?」


 アーヴィンさんが私に振り返る。


「どうした? 急にあらたまって。何かあるのか?」

「はい、私のもう1つの仕事の方で皆様にどうしてもお聞きたいことがあって」


 私は店の給仕役に声をかけて私物の入った手提げ袋(レティキュール)を持って来させた。それを受け取ると中から2つのものを取り出す。

 1つは職業傭兵としての認識プレート、もう1つはあの人物の顔写真だ。


「私のもうひとつの仕事はこれです」


 そう言いながらテーブルの上に職業傭兵の認識プレートを置く。それを見たみんなが気づいてくれた。

 ニルセンさんが言う。


「職業傭兵!」


 レグノさんがつぶやく。


「なるほどどうりでアーヴィンにも怯まないわけだ」

「ああ、あの業界で活躍しているなら、腕っぷしの強い荒くれた男はむしろ居て当然だからな」

「人間というのは見かけによらんな」

「まったくだ」


 彼らが口々に驚きの声を漏らしているのがよくわかる。

 カルロさんが思案して口にする。


「まて、この認識番号の系統、最低でも1級以上だぞ」


 それに素直に驚いたのかアーヴィンさんだ。


「分かるのか?」

「ああ、職業傭兵や軍人の認識番号は精密に計算されて作られているが、実はある程度内容を分析する方法がある。あまり大っぴらには言えないがそのやり方を知ってるんだ」


 さすがにこれには驚いた。私は思わず聞いてしまった。


「どこまでわかるんですか?」


 カルロさんは私の疑問にニヤリと笑った。


「それは言えないな。私の武器だからね」


 悪戯っぽく笑いながらの言葉が彼が隠し持っていた無邪気さを垣間見せているような気がした。カルロさんが尋ねてくる。


「それで私たちに何を聞きたいのだね?」


 そうだその話に戻らなければ。私はレティキュールの中にしまっておいた一枚の写真を取り出した。


「この人物についてお尋ねしたいんです」


 私がかねてから調査を続けているあの製鉄工学の学者のケンツ博士だった。写真に写る顔を見てアーヴィンさんがいきり立つように言葉を吐いた。


「こいつ! ケンツ!」


 レグノさんも言葉を吐く。


「ああ、あの常識知らずの製鉄工学学者だ」


 ニルセンさんも不愉快そうだった。


「まったく、彼と関わったばかりにえらい目にあった」


 アルシドさんもその言葉に同意していた。


「まったくだ。もう二度と会いたくないものだ」


 予想通りというか予想外と言うか、ことごとく批判的な言葉が返ってきた。それはかなり強い批判的なニュアンスがある。


「ご存知のようですね彼を」


 私の言葉に彼らを代表するようにレグノさんが答えてくれた。


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