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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第6話:北の街イベルタルにて(後編) ―ルスト、夜の潜入調査任務―
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高級酌婦《ガストアミーノ》ⅩⅩ ―アルシドの本音と、プリシラの提案―

 ニルセンさんの言葉は続いた。


「私には仲間がいない。友人もいない。母親は私を見捨てて同族の男とさっさと再婚した。父親のフェンデリオル人はどこの誰かも分からない。だからこそ同じ民族同士で楽しくやっている君たちが羨ましくて仕方なかった。そんな私が心の縁にしていたのが在外商人の仲間たちだった。それしか残っていなかったんだ」


 そして彼はこの国に対して抱いていた思いを口にした。


「そんな私にとって最後のよすがとなっていた在外商人と言う存在は、この国の中では厄介者として扱われていた。でも私にはここから他にはどこにも行くところがない。今更、東方人の社会の中に行くこともできない。この国を追い出されたらもうどこにも行くことができないんだ」


 そして、アルシドさんがその言葉に続けた。


「俺も似たようなもんだ。俺の場合は親の残した借金だ。父親は事業に失敗して破産して逃亡。母親は金の勘定もできないほどの愚か者。赤貧の毎日の中で糊口を凌いでいた。いつかここから這い上がるという思い1つで必死に働いた。『貧すれば鈍する』と言う言葉があるが、金を稼ぐという価値観以外を知らずに育った俺には、友人とか無償の信頼とかそういうのが理解できなかった。だから女性と会話するときも相手の心をつかめるような言葉は何1つ言えない。最後は金にあかして言いなりにさせるしかできなかった」


 そんな彼の言葉を隣に座っていたアンジェリカはじっと聞き入っていた。アルシドはアンジェリカに語りかける。


「実はね、私が君たちに嫌われているということは既に気づいていた。なりふり構わず金さえ払うから何でもやらせろ、などと言う下品な男が女にモテるわけがない。それを分かっているからこそ卑屈にもなるし、なおさら金にすがる。でももうそういうのはいい加減うんざりだ」


 ニルセンさんが答えた。


「そうだな。これが潮時かもしれんな」

「どんなに自分を守ろうとして必死になっていても、結局、他者に受け入れてもらえなければ何の意味もない」

「酔いつぶれたそこの大男みたいなものだ」

「この生き方を変えれるものならな」


 そこに声をかけたのは口数少なく見守っていたカルロだった。彼は言った。


「ニルセン、アルシド、諦めるのは早い。まだまだやり直せる」


 2人の視線が向けられる中で、カルロさんはなおも告げた。


「考え方の根本を切り替えるのだ。奪うのではなく、与えると」

「与える?」

「そんなどうやって?」


 驚きと戸惑いの言葉が口を出る。なりふり構わず自分を守ることに必死だった彼らだからだ。与えるという言葉の意味を肌感覚で理解できないのだ。でも2人のそんな反応はカルロさんには想定済みだったようだ。


「そうだな、その答えだったらそこにいるプリシラ嬢なら知っているんじゃないかな?」


 それまで沈黙を守っていた彼だったが、口を開いてみればそれなりの良識派であるようだった。彼に話を振られて私は戸惑いつつもあることを提案した。


「そうですね。私から言えることがあるとすれば『フェンデリオルを知るのならば、東でなく西を見よ』と言うところですね」


 ニルセンさんが尋ねてくる。


「西? 西に何があるのかね?」


 私は冷静な面持ちで答えた。


「フェンデリオルにおいて、本当に戦争に晒されて負担を強いられているのは国土の西部地方に住んでいる人たちなんです。国政の中心である東部地方は侵略の危機には縁遠いんです。フェンデリオルの西と東――そのあまりの違いに心ある人は胸を痛めてると言います」


 レグノさんが言葉を添える。


「フェンデリオルの東西格差問題だね?」

「はい、この国は西と東ではあまりにも軍事的負担の違いが大きすぎるんです」

「そうだね、フェンデリオルの西の国境付近には敵対国家であるトルネデアスが睨みを利かせている。隙あらば侵入してきてこの国の国土を掠め取ろうとしている」

「その通りです。そのためかどうしても、侵略の危険に晒される事のない東部領域と異なり、国家の中央からも離れた西の方では教育も経済も医療も大きく立ち遅れてると言います」


 そして私は自分自身の過去の経験から、フェンデリオルの国民皆兵制の現実について説明した。


「実際問題として、国民皆兵制と言う建前はありますが本当に国民のすべてがその義務を果たせているとは言い難いのが現実です。義務を果たしたと口にしていても、年に1度の軍事教練に顔出したのがせいぜいというのが特に中央首都近くの国民の間ではほとんどなんです」


 そこでアルシドさんが大きくため息をついた。


「やはりそうか。すぐに兵役の参加義務とか国防への参加義務について、論争を仕掛けてくる人間については胡散臭いと思っていたのだが、その疑問が氷解した」


 ニルセンさんも皮肉を込めて言った。


「本当の意味で〝戦った〟事のない人間ほど、自分は義務を果たしたと声高に主張しようとしてるのさ。国を守るという事においては何も武器を取ることだけが国家への貢献とは限らない。それ以外にも道は有って当然だと思うのだ」


 私はその言葉に頷いた。


「おっしゃる通りです。だからこそ国の外に拠点を置いている人々に対しては通常的な軍役への参加が免除されています。それはつまり、通常の方法とは異なる手段で国家に貢献、国の守りに貢献をしてほしいと言う提案に他ならないと思うのです」


 ニルセンさんは頷いた。


「プリシラ嬢、君の言う通りだ。ただ問題はどういう形で、そして他人から見てもはっきりと分かる形で功績を残せるか? という事だ。人より多額の納税をした程度では我々在外商人への根強い偏見は消えることはないからね」


 彼らの言う通りだ。誰の目から見てもはっきりと見える形で、この国への、そしてこの国の抱えている問題への関与と貢献が必要になってくるのだ。私はそのための答えを彼らに教えた。


「その答えを求めるのであれば、ある場所に実際に足を踏み入れてその目で見て頂きたいのです」


 レグノさんが尋ねてくる。


「その場所とは?」

「――ワルアイユ――」


 私の放った言葉が印象的にラウンジルームの中に響いた。皆の視線が私の方へと集まっていた。


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