臨時訓練修了 ―銃火器部隊結成―
「ルストさん」
「なに?」
「ひとつお聞きしてよろしいですか?」
「いいわよ」
私は彼女の言葉に耳を傾けた。
「ルストさん。〝天才〟って呼ばれるのってどんな気持ちですか?」
別に意外な質問だとは思わなかった。むしろ彼女らしい。
私は彼女の言葉に耳を傾けた。
「ルストさんが〝精術の天才〟と言われているといろんなところから聞きます。実際、軍大学を飛び級で卒業したとか、ドーンフラウ大学で特別待遇だったとか、ものすごい話をいろいろ聞きます。
それにひきかえ私は凡人です。何の取り柄もありません。士官学校を目指して試験の突破も出来ませんでした。一般兵卒の募集に紛れて女性兵士になりましたが、腕力があるわけではない、剣技が優れているわけではない、ましてや、精術も使えない〝適性欠損〟、大集団の中で遅れないようにするのが精一杯」
とうとうと語られた過去の最後に出てきたのはやっぱり弱音だった。
「あなたは私にとって憧れです。でも住む世界が違います」
住む世界が違う、なるほど分からないでもない。でも、私はそんな風には微塵も思っていない。私はゆっくりと諭すように語って聞かせた。
「あのね、クレスコ伍長、よく聞いて」
「はい――」
「私ね、自分が天才と呼ばれることについては何とも思っていないの」
私の話に恐る恐る顔を上げてくる彼女がいる。私は彼女を真剣に見つめた。
「精術の天才、軍学校の神童、昔から色々言われた。でも私にはそんな言葉何の価値もない」
ベッドサイドに座りなおし彼女の身に手を握る。その指先は冷え切っていたが、私の手の中でゆっくりと温まっていく。
「私、精術の天才なんて言われているけど、精術使いとしては致命的な欠陥があるのよ」
「えっ? 欠陥? ルストさんが?」
「ええ」
驚く彼女に、自分自身の〝欠陥〟について語って聞かせた。
体が小さく華奢であるがゆえに、精術使いには一番重要なスタミナの余裕がないという事実。それによる挫折と、挫折を乗り越えるために何度も繰り返したその努力を。
力の容量が足りないというのなら、発動する際の精度を極めて、より少ない消費で精術を発動させればいい。そう考えて、それを実行し、それを形にしたのだ。
言うは易く行うは難しで、相当な努力と鍛錬を必要としたのだが。
私の話を耳にして彼女の表情が変わっていくのがわかる。私に対する〝色眼鏡〟が砕けて散った瞬間だった。
「だからね。今回の短期の特別訓練で一人だけ女性が志願してきたと聞いて、いてもたってもいられなかったの。そして都合をつけて最終訓練に立ち会った。そして迎えたあなたの番、岩場の上で引き金を引き続けるあなたを見て私はこう思ったの」
私は彼女の眼をじっと見つめながら告げた。
「『ああ、あそこに私がいる』って」
その言葉に彼女の目が見開かれる。驚きよりも、安堵を感じる瞳の色だった。
「大雨にずぶ濡れになっても引き金を引き続けるあなたは、誰にも頼らずに精術の研鑽を続けていた昔の私と同じ! 同じなの!」
彼女の目が涙に潤んでいるのが分かる。今までに歩んだ、蹉跌と挫折と苦闘を思い出すかのように。そして私は彼女を抱きしめた。自らの妹を愛しく抱きしめるように。
「よく乗り越えたわね!」
「は、はい……」
彼女の声が震えている。
「ありがとうございます」
その頬を大粒の涙が伝っている。適性欠損と言うレッテルに苦しみ続けた彼女へ私がかけられる一番の言葉を送った。
「やっと見つけたわね、あなたの〝適性〟」
「はい」
「あなたの人生はこれからよ」
「はい」
「これからも前を向いて努力を続けて。必ずそれに運命が報いてくれる時が来るから!」
「はい!」
彼女が発する言葉にはもう迷いはなかった。
自信を持ち、より前へと進もうとする強い意志がそこにあったのだ。
† † †
翌日、すっかり体力の回復した彼女を伴って訓練場の詰所へと彼女を送る。
そこで正規軍の正装姿へと着替えて、彼女をはじめとする総数20名の訓練生は修了式を受けることになる。
一人一人に修了証書と訓練完了を意味する徽章が与えられる。最優秀成績者である彼女は一番最後だった。
修了証書と合格徽章が渡された後に、最優秀成績者への勲章が授与される。
育成訓練における首席修了者に授与される〝育緑章〟
天に向かって聳える大樹を模した白銀色に光る勲章だ
それを渡したのはもちろん私だ。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
「これからのあなたの活躍に期待します!」
「はい!」
敬礼して、彼女が壇上から降りて行く時、仲間たちからの割れんばかりの拍手が迎えてくれた。
序列で主席となった者の務めとして彼女は号令をかけた。
「整列!」
即座に2列横隊に並ぶ。
「敬礼!」
彼女の号令で20人が一斉に敬礼する。その統制ぶりは実に見事だった。これからどう伸びるのか期待が持てるだろう。私は彼らに叫んだ。
「皆の奮起が、祖国の将来を左右します! 作戦時においてはより一層の奮起を期待します!」
「はっ!」
地獄の特訓を乗り越えた20名が一斉に返答する。
それは門出だった。
新たなる始まりだった。
その中に新たな力を得た〝彼女〟が間違いなくそこにいた。
ここにドルスが手塩にかけた銃火器部隊は一つの完成を成し得たのだった、
お願い:☆☆☆☆☆を★★★★★にしてルストたちの戦いを応援してください! またツイートなどでの読了報告もご協力お願いします