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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第6話:北の街イベルタルにて(後編) ―ルスト、夜の潜入調査任務―
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高級酌婦《ガストアミーノ》ⅩⅡ ―専属酌婦《モノポーラ》の女たち、仕上がる―

 私を見つけたのはシュウ女史だった。


「おや? プリシラ、戻ってたのかい」

「はい、宴席の場の下見をしていました。戦場の偵察は傭兵にとってはいろはのようなものですから」

「ふふ、頼もしいね。そういやこっちも準備終わったよ。土台がいいから彼女たちも磨けばもっと光るかもしれないね。さあお前たち、こっちにおいで」


 シュウ女史が招くのと同時に専属酌婦(モノポーラ)の彼女たちが部屋に入ってきた。それまでの簡素なイブニングドレスと比べればそれは実に華やかなものだった。

 着ているドレスは最上質のサテンシルク、キラキラと輝くような光沢が着ている者のボディラインをはっきりと浮かび上がらせている。

 背面は腰骨の辺りまで露出したベアバックデザイン、胸元はデコルテのあたりで水平にカットし、これをプラチナチェーンを首に引っ掛けてドレスの前身頃を吊り上げている。さらにここにゴールドの細チェーンのネックレスを異なる長さのものを何段にもかけている。手首には私と同じバングルリングを片側に10数本、これを左右につけている。

 足下には革製のエスパドリーユ。足の指が露出しているデザインでペディキュアが赤く鮮やかだった。この他、指には各々に異なる指輪が嵌められ耳にもピアスやイヤリングがそれぞれにあしらわれている。

 化粧もシュウ女史が腕によりをかけてやり直したおかげでハッとするような美しさが浮かび上がっていた。


 なによりも面構えが違う。

 うろたえ、怯えて、途方に暮れたときとは異なり、胸を張って堂々としている。彼女たちならどんな所に出しても引けは取らないだろう。


「準備はいいかしら?」


 私が問いかければ彼女たちの1人、最も背の大きいリーダー格と思われる青い目の彼女が答えてくれた。


「はい! いつでも大丈夫です」


 赤い目の彼女が言う。


「お任せください。必ずやご期待に応えてみせます」


 残りの2人もはっきりと頷いている。その態度たるや実に堂々としたものだ。

 私は彼女たちにその名前を尋ねた。


「皆様の源氏(プロフェシア)名をお聞かせください」


 青い目の彼女が言う。


「アンジェリカと申します」


 赤い目の彼女が答える。


「レベッカです。よろしくお願いいたします」


 茶の目の彼女が名前を口にする。


「ローザです。最後まで頑張ります」


 最後に黒い瞳の彼女だ。


「チコと言います。よろしくお願いいたします」


 これで4人の名前が出そろった。私は彼女たちに告げた。


「手抜かりのない準備ご苦労様です。時間がいよいよ夜の7時に迫ってきました。泣いても笑ってももう逃げれないところまで来ました。ですがここに今更逃げ出そうなどと思うような人はいないでしょう」


 当然ながら反論の声は出ない。しっかりと私を見つめ話を聞いてくれている。


「追い詰められた人間が逆境を跳ね返し運命を切り開く方法はたった1つです」


 息を吸い込み力強く唱える。

 

「立ち向かうことです!」


 4人が同時に頷いた。その瞳に力が浮かんでいる。


「覚悟はよろしいですね?」

「はいっ!」


 人は追い詰められると何をして良いか分からなくなる。傭兵のような商売をしている人間でも往々にしてよくあることだ。しかしだからこそ、そういう時にこそ導くものが必要になるのだ。

 このような状況の彼女たちの所に、私が高級酌婦(ガストアミーノ)として訪れたのもある意味必然だったのかもしれない。


 私たちの様子を見ていたシュウ女史が声をかけてきた。


「7時10分前、そろそろ頃合いだよ」

「はい! それでは参りましょう」

「あんたたちも頑張っておいで。夜の女の本気の強さを見せておやり」

「はい!」

「シュウ様も本当にありがとうございます」

「ああ」


 懸命に今の状況に立ち向かおうとしている彼女たちに向ける、シュウ女史の視線は穏やかで優しかった。


「行って参ります」

「気をつけて。私は野暮用を済ませてから宴席が終わる頃にまた来るから」

「はい、それでは――」


 こうして私たちは覚悟を決め、シュウ女史に見送られて宴席の行われるラウンジルームへと向かったのだった。



 †     †     †



 廊下を歩いてラウンジルームへと向かう。ラウンジルームには2つの入り口がある。来客が用いる通常入り口とと、私たち店員が用いる通用口だ。

 その通用口に向かう途中でアシュレイさんが私に歩み寄って耳打ちしてくれる。


「ニルセン氏に地下銀行の使用の形跡が見つかりました。外部で発覚すれば十分に逮捕される要件です」


 私は視線をアシュレイさんに向けて小さく頷いた。


「ありがとうございます。それだけ聞かせていただければ十分です」


 思わぬ切り札が手に入ったが、これをどう使うかは状況次第だ。アシュレイさんが去って行き、ラウンジルームの通用口へと近づいて行く。その入り口の扉の取っ手を1人の男性使用人が握りしめている。


「お開けしてよろしいでしょうか?」

「お願いするわ」

「それではまいります」


――ガチャッ――


 その音と同時に扉が開いて中からひんやりとした風が溢れ出してきた。

 私は背後の4人の女性たちを率いてその中へと入っていった。


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