高級酌婦《ガストアミーノ》ⅩⅠ ―5人目、マーヴィン・ラウドと、戦場の下見―
次は5人目、そして、もっとも問題のある人物だ。アシュレイさんがその名を口にする。
「マーヴィン・ラウド氏ですね」
「ええ、この中では一番の問題人物なんでしょ?」
「はい。船に関するキャリアがあるようで、なおかつ荒事に強い。血の気が多く豪放磊落と粗暴がそのまま見合うような人物です」
「ええ、この人の過去の商売についてはだいたい推測できるわ。元海賊か何かで商売替えをして陸に上がった。そこで強引なやり方で急速にのし上がってフェンデリオルにも活躍の場を広げた」
「一般に流布している風評としてはその通りです。ですが、あまりにも乱暴な手段を取りすぎたせいで、それまでの活動拠点であったジジスティカンでは、その活動に規制がかかっているようです。そこで活躍の場をフェンデリオルに移したのかと思われます」
「そう。そこまでわかれば十分だわ。この人の相手は私がします。おそらく彼を落とすことができれば全体の流れはこちらの方へと掴めるはずですから」
これで全員の割り振りが決まった。後は現場に臨むのみだ。
話し合いがまとまりを見たのを見てシュウ女史が言った。
「これで大体決まったね。あとは結果を出すだけだね」
「はい」
そこで私はこう答えた。
「私1人で望むより、これだけの人数がいればチームワークでお互いをカバーできるでしょう。絶対に〝勝って〟お見せします」
「ああ、期待しているよ」
そして、この場に居合わせた4人の専属酌婦の彼女たちにもシュウ女史は声をかけた。
「覚悟を決めて腹をくくったあんたたちだ。しっかりやっておくれよ」
「はい」
「お任せください」
「よし、良い顔だ。それじゃあ気合付けにドレスとアクセサリーを、私が手助けしようじゃないか。プリシラに見落とりしないためにもね」
さすが、シュウさんだ。そのことにも気づいてくれていた。
「そうですね。着ているものや身につけているものが私の物とあまりにも乖離していると、彼女たちが見くびられる原因にもなりますから」
「分かったよ。アシュレイ!」
「はい。ただいま速やかにご用意いたします」
「あんたたちも、身支度の見直し、時間までしっかりやりなよ」
専属酌婦の彼女たちもシュウ女史の支援に驚きつつも感謝しているようだ。
「本当ですか?」
「ご支援いただきありがとうございます!」
「精一杯頑張ります!」
「ああ、プリシラと一緒に必ず成果を出しておくれ。それじゃ衣装とアクセサリーが届く前に化粧の見直しと行こうじゃないか。私が化粧を施してやるよ」
「はいっ!」
シュウ女史が自ら手を貸してくれる。そのことに4人は沸き立っていた。
「シュウ様、それではお願いします」
「ああ、あんたは宴席の準備、しっかりとね」
「はい、心得ております」
これだけの人数が居て方針がしっかりと決まった。
宴席が始まるまで残り一刻(注:約1時間)を切った。後は準備に全力を注ぐのみだ。
「それでは準備お願いします」
「はい!」
「承知しました」
次々に声が上がって動き始める。戦いの時はもうすぐだった。
すなわち、夜の街に生きる女の矜持をかけた戦い。これに負けるわけには行かないのだから。
† † †
他の4人の専属酌婦の彼女達の支度が終わるまでの間、宴席の場所となるラウンジルームの下見を私はしていた。
大きい半円のテーブルがあり、その周囲に2人掛けのソファーが5脚置かれている。宴席の形としては客1人に対して酌婦が1人付き添う形となる。客同士が語らい合い、その傍らに酌婦が控える形となるのだ。
テーブルの上にはつまみとなる料理とともに酒のグラスとボトルが既に準備されている。そして席と向かい合わせとなる部屋の反対側には小さめのステージがある。踊り子を招いて踊りを披露させたり、歌や演奏で客を楽しませるために使われる。
宴席の準備としては妥当なところだろう。ちょうどその時、給仕役の男性店員が姿を現した。
「ああ、ちょうどいいところに来たわ」
「はい何でしょうか?」
「客人に出すお酒とは別に、ショットグラスを20個ほど用意してちょうだい」
「ショットグラスを? ですか?」
「ええ、それとお酒は――」
私はお酒の名前を彼に耳打ちした。
「――あるかしら?」
「はい、上質のものがご用意してございます。本来であればカクテル用なのですが」
「それで構わないわ。味を調整するためにカットしたライムもお願いね」
「はい、承知いたしました」
「それと、1対1のサシで向かい会えるテーブル1つと椅子2脚もね」
「テーブルと椅子のセットもですね。了解です」
「宴席に出すタイミングは私が声をかけるからそれまでは隠しておいてちょうだい」
「承知致しました。それでは必要な時はいつでもお声掛けください」
「よろしくね」
そう言葉を交わしてラウンジルームから出ていく。そして、外来の高級酌婦の控え室に戻る。そこにはまだ誰もいなかったが、ソファーの1つに腰を下ろした時、控え室の扉が開いた。







