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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第6話:北の街イベルタルにて(後編) ―ルスト、夜の潜入調査任務―
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高級酌婦《ガストアミーノ》Ⅵ ―4人の専属酌婦《モノポーラ》と覚悟を決めたルスト―

 彼が詫びると同時に怯えているのが分かる。イベルタルの花街を代表するシュウ女史の肝いりの高級酌婦の派遣とあって、その肩慣らしとして宴席の場を借りようとした――、と言うふうに思っているのだろう。しかし実際には厄介きわまる迷惑客を押し付ける形になったのだ。普通にシュウ女史の逆鱗に触れる事を覚悟しないといけないだろう。

 だが、その程度で怒り出す私達ではない。


「なるほど、そういうことでしたか」


 彼らの側の事情が分かった以上、これを責める理由はどこにもない。私は努めて穏やかな声で語りかけた。


「そんなに怖がらないでください。まずは顔をお上げください」


 アルメオ氏は驚いたような顔をしながらも、批判されるような状況ではないことに少なからず安堵しているようだった。

 私もさりげなく傍らのシュウ女史を眺めたが取り立てて激怒しているというような状況ではない。

 それよりもだ。


「むしろそのような状況であることは私にとっては何の問題もありません。むしろ望むところです」


 在外商人と言う存在が想像した通りの問題人物たちだった。いや、それ以上と言うべきか? そのような人たちに鉢合わせられるというのは、私本来目的としては願ったり叶ったりだ。


 ふとその時、私は部屋の外からある視線を感じていた。

 その視線のもとをたどればそこに佇んでいたのは4名ほどの酌婦の女性たちだった。ドアをそっと開けて様子を窺っている。私の視線にアルメオ氏が気づいたようで背後を振り返った。


「あ? お前たち何をやっている! お客人の前だぞ!」


 私は顔を左右に振った。


「いえ、お気になさらず。よろしかったら彼女たちにも詳しい事情をお聞きしたいのでご一緒していただいてよろしいでしょうか?」


 私はそっと傍らのシュウ女史にも視線を向けた。


「いいんじゃないかい? それよりも何か考えたようだね」

「はい。攻略すべき相手が分かったのでそのために必要な情報を集めようと思います」


 そう告げた時の話題の顔を見てシュウさんは感心したようにこう言ってくれたのだ。


「プリシラ、あんた成長したね。あれだけの〝戦歴〟はさすがに伊達じゃないね」


 私はにこやかに笑いながらも右手の人差し指を口の前で縦にした。


「シュウ様、それ以上は――」

「おっと、口が滑るところだった」


 そんなやり取りをしている間にも、この店の4人の専属酌婦(モノポーラ)が部屋の中に入ってくる。

 いずれもフェンデリオル人で髪はそれぞれに濃度の違う金色で瞳は蒼、茶、赤、黒とそれぞれに違う。着ているものは私のように背中が全面開いたイブニングドレス。つま先が見えないくらいに裾が長い物だ。たださすがに身につけているアクセサリーやドレスの仕立ては私のものよりも格落ちしているが。

 4人の中の1人が口を開いた。


「大切なお話の最中に、お邪魔をしてしまい申し訳ございません」


 彼女たちが横に並んで頭を下げてくる。そこには到底、夜の女としての華やかさはない。どうしていいかわからないという風で途方に暮れてると言った方が正しいだろう。 


――これは助けてあげなければならない――


 私の心の中の何かが音を立てて切り替わった。

 頭が急速に冷えて冷静になっていく。

 そんな私の様子に気づいたシュウ女史が私に問いかけてきた。


「おや? 表情が変わったね。今のあんたの本来の仕事としての顔だね?」

「はい。このまま見過ごす訳にはいかないので」

「腹をくくったようだね。いい顔してるね」

「ええ、助けを求める人々に手を差し伸べるのは当然のことですから」


 私のその言葉に満足気にシュウさんはうなずいてくれていた。


「そしてどうするんだい? 何か手はあるのかい」


 当然だ。どんなに義憤に駆られていても、対抗策を打ち出すことができなければ1人芝居でしかないからだ。でもその点は抜かりはない。


「お任せください。ちゃんと策はあります」


 私はアルメオ氏に再び語りかけた。


「支配人、今回の宴席の顧客名簿のようなものありませんか? 可能な限り事前情報を集めておきたいのですが」

「は、はい。宴席予約を受け付けた際に参加者の名前といくつかの情報を聞かせて頂いております」


 アルメオ氏は傍らの側近に命じる。


「今夜の宴席についての資料を持ってきなさい」


 命じられてその側近が踵を返して部屋から出て行く。そしてすぐに、木製のバインダーに挟まれた何枚かの資料を持ってきた。


「こちらでしょうか?」

「ああ、そうだ」


 バインダーを開いて書類を確かめると、それは私の方へと手渡してきた。


「どうぞ、宴席の予約受付書類と宴席の内容についての覚書です」

「ありがとうございます。それでは失礼して」


 バインダーを開いて渡された書類に目を通す。まずは受付書類だ。


――――――――――――――――

宴席予約受付書類


○月○日午後7時

宴席予約主体:小規模団体

予約名義:在外商人私設交流団体『ヘルメスの鍵』

予約者:レグノ・アントン

酌婦指名:無し

踊り子予約:無し

――――――――――――――――――――――――――


 私はそしてさらに5人の宴席客のリストに目を通した。


――――――――――――――――――――――――――

宴席参加者一覧


レグノ・アントン    :貿易商、投資家

アルシド・アンジェラス :貿易商、金融家

ニルセン・(チャオ)     :貿易商、鉱山主

カルロ・ヒルトン・ニコル:貿易商、法律家、行政書士

マーヴィン・ラウド   :貿易商、船主、馬車業、馬喰


以上、5名

――――――――――――――――――――――――――


 なかなかに癖のある連中が揃っているようだ。だがこれだけではまだまだ足りない。名前と職業が分かった以上、そこから深掘りすることができるだろう。


「アルメオ支配人、この名簿は1枚だけですか?」

「いえ、そちらは写しの控えです」

「ではお借りしてよろしいですね?」

「はい、ご自由に」


 そして私はシュウさんにも問いかけた。


「シュウ様、アシュレイ様をお借りしてよろしいですか?」

「ああ、構わないよ」

「ありがとうございます。アシュレイ様、少々お願いしたいことが」


 それまで少し離れた位置で控えていたアシュレイさんだったが、私に呼びかけられてすぐ近寄ってくる。


「いかがなさいましたか? プリシラ様」


 私は予約名簿を手渡しながら言う。


「このリストに記載されている5人についてさらに詳しく調べることはできますか?」

「承知いたしました。可及的速やかにお調べいたします」


 そう答えると私とシュウ女史にそれぞれに会釈をしながら部屋から去っていった。

 アシュレイさんが戻ってくる間、私はこの店の専属酌婦(モノポーラ)の彼女たちに事情を尋ねることにした。


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