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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第6話:北の街イベルタルにて(後編) ―ルスト、夜の潜入調査任務―
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高級酌婦《ガストアミーノ》Ⅳ ―酌婦プリシラ、衆目に称賛される―

 別の2人連れの壮年の男性たちの会話が聞こえる。


高級酌婦(ガストアミーノ)のご婦人か?」

「そうみたいだな。でも一緒にいるのは北の女帝のシュウ・ヴェリタスじゃないか?」

「それじゃ彼女の?」

「お抱えのガストアミーノだろうぜ」

「北の女帝、直々の置屋所属かよ?」

「すげぇな」


 2人の会話を聞いた他の人々も驚きとため息を漏らしていた。

 次々に集る人垣の中から、明らかに上流階級の候族の青年男性と思わしき人とその付き人が進み出て、私たちの後をついてきているアシュレイさんに声をかけた。アシュレイさんがシュウ女史の側近だと理解したのだろう。


「失礼いたします。こちらのガストアミーノのご婦人のご芳名を賜りたい」


 その問いかけにアシュレイさんは「少々お待ちを」と一言断った上でシュウ女史に耳打ちする。シュウさんは微かに微笑んで頷き返した。

 その仕草を〝同意〟と理解してアシュレイさんは質問に答えることにした。


「こちらの方は手前どもの置屋の主人であられますシュウ・ヴェリタス様のお仕立てで宴席へと派遣される事となりました高級酌婦(ガストアミーノ)であられます『プリシラ嬢』にございます。お見知りおきをよろしくお願い申し上げます」


 するとその候族の青年の付き人はアシュレイにそっと高額金貨を一枚手渡した。無論その金貨には一枚のカードが添えられている。

 カードにはおそらく名前と連絡先が明記してあり、何かあればその時は彼女を派遣して欲しいと言う暗黙の意思表示だ。高級酌婦の世界では当たり前に存在する行為で〝手付けの金貨〟と呼ばれている。


 挨拶代わりの手付の高額金貨の作法は取り立てて珍しいものではない。むしろこれくらいはあって当然のものだ。手付けの金貨を渡したからといって確実に縁を取り持ってもらえるわけではない。

 しかし名前を覚えてもらうというのは、格上の高級酌婦に来てもらうためには必要な行為なのだ。

 私の傍にいたシュウ女史が私の腰をさりげなくつつく。挨拶代わりの手付の高額金貨を手渡してきた相手に挨拶をしろと言う意味だろう。

 私は歩みを止めて緩やかに体を翻す。

 ドレスの裾がしなやかに動いて足首が露出する。人々の視線を集めながら私は礼意を表した。


「お初にお目にかかります。プリシラと申します。今後ともご贔屓に」


 そう口にしてほんのわずかに小首をかしげる。とっさに相手を判断するが、見た目の感じ中級候族に成り立てと言った所だろう。加えて金はあるが家督継承権を持たない次男三男以下と言ったところだろう。家督継承権を持つ長男であるならば、一緒についているのは執事格に近い人物であるからだ。その辺りは上級候族出身の私としてはその雰囲気と貫禄で、相手の身分と格は一見しただけでまず確実に分かる。

 会釈をするほどの相手ではないと私は判断した。そして、私は再び歩き出す。1人目に続いて2人目に手付を渡そうとしていた者がいたがさすがに今度はシュウさんは同意しなかった。


 通りすがりの高級酌婦に挨拶ができるのは早い者勝ちだ。そして貫禄と間の良さが重要になる。二番煎じの挨拶はお呼びではないのだ。 

 人々の視線を背に私は建物の中へと入っていく。正面エントランスを抜けてスタッフ用の裏階段へと抜ける。鉄製手すりの螺旋階段を登り3階フロアへと登るその途中でシュウさんが問いかけてきた。


「さっきの候族のボンボンに会釈すらもしなかったね、どうしてだい?」

「そこまでする必要を感じるような格の持ち主ではなかったので」

「ほう?」

「おそらく、中級の候族、それも中級では下の方だと思われます。さらに家督継承権を持たない次男坊以下。連れているのが執事格の家令候補者ではなく単なる従僕男性でした。名前の名乗りだけで十分釣り合う人物です。会釈なんてもったいないです」


 あっさり言い切る私にシュウさんはクスクスと声を上げて笑っていた。


「随分はっきり言い切るね。本人に聞こえたらなんて顔するだろうね」

「仕方がありませんよ。男としての貫禄がなければ夜の街ではお呼びではありませんから」


 私のその言葉にシュウさんは言う。


「言うねぇ、プリシラも。どうやら〝昔の勘〟は鈍ってはいないようだね」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

「ふふ、なんてったって3年前のあの頃に酌婦としてのイロハは徹底的に叩き込んだからね。教えた甲斐があったってものさ」


 その言葉に私は満面の笑みで答えた。


「なんてったって、私、シュウさんの愛弟子ですから」

「ふふ、あんたがそう言ってくれると私も嬉しいよ」


 そう語るとき、笑みをたたえたシュウ女史の顔が見えた。


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