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新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの国際精術戦線―  作者: 美風慶伍
第6話:北の街イベルタルにて(後編) ―ルスト、夜の潜入調査任務―
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高級酌婦《ガストアミーノ》Ⅲ ―至宝馬車、花街を東5番丁へ―

 馬車は表通りの大きい道を外れて右に進路を変えた。その先に花街があるのだ。私を乗せた至宝馬車が、眩いばかりの光に溢れるイベルタル名物の歓楽街である花街へと足を踏み入れる。

 

 イベルタルの花街はその見事なまでのガス灯で知られている。

 街そのものをあぶり出すかのようなあふれる光で彩っている。

 最近ではガス灯とステンドグラスを組み合わせた、照明看板が登場したという。もとより夜を徹して輝き続ける花街だ。街の彩りという点においては手抜かりのある街ではない。


 その花街の南側、最も大きな街路の入り口に高さ2フォスト(注:約3.6m)はあろうかと言う2柱の巨大なオベリスクが立っている。

 イベルタル花街の〝南門〟だ。

 同じものは北側にも有り、そちらは〝北門〟と呼ばれている。

 そこを通り過ぎればいよいよ花街の中だ。


 街は眩いばかりの光で溢れて、多種多様な様々な店が軒を並べている。

 高級娼館、高級酒房と言った定番の店から、ちょっとしたアングラ趣味の店、あるいは花巻の女性達が好むようなドレスのブティックや贈り物にするための宝飾店、花を売る店や、変わったところでは代書屋なんてのもある。

 馴染みの娼婦や酌婦に恋文をしたためてもらうための店だと言う。

 無論こういう街だから、治安は決して良いとは言えない。花街に来訪する客人たちを無事に帰ってもらうためにも街の至る所に〝自警団〟の屈強な男たちの詰め所が立っており、軍警察の事務局も存在している。

 夜の街の特有の事情に対応できる病院もあり、当然ながら人々の足となる馬車業者もそこかしこに店を構えている。無論、流しの馬車も健在だ。


 大通りを多種多様な人々が行き交っている。

 花街で享楽のひと時を過ごすために訪れる来訪者たちの姿もあれば、花街でなんらかの仕事についている女性たちの姿もある。時刻はまだ夕暮れ過ぎなのでこれから店が始まる人たちの方が多い。

 これがもっと遅い時間になれば、街角の辻に立つ〝私娼(プリヴァティーノ)〟の女性たちが増えてくる。ただし、フェンデリオルでは私娼は性病の温床になりやすく規制対象なので軍警察の官憲との追いかけっこが至る所で繰り広げられるわけだが。


 イベルタルの花街は南北に貫く中央大通りを境目として東と西に分かれている。さらに1番丁から20番丁まであり、それぞれに様々な業種で住み分けが進んでいる。

 至宝馬車は花街の中心地である噴水広場を少し過ぎてから、さらに右へと折れる。その辺りが東5番丁と呼ばれるあたりで超高級店の高級酒房が軒を並べているあたりだ。

 当然ながら私たち以外の至宝(ユヴェーロ)馬車もいくつも行き交っている。その中に高級酌婦(ガストアミーノ)が乗っているものもあれば、すでに送り終えたあとなのだろう。空車で通り過ぎるものもある。その中を私たちが乗った至宝馬車は駆け抜け、ある建物の前で静かに停車した。


【大星楼】


 そう銘打たれた建物は地上4階建ての大きめの建物だ。それぞれの階に異なる店が入っている。ひとつの土地区画をまるまる使った巨大な建物であり四方に出入り口が存在している。


「ここでしょうか?」

「そのようだね。みだりにキョロキョロするんじゃないよ」

「はい。承知しております」


 シュウ女史の小言が飛ぶのを私はやり過ごした。

 ここから先の振る舞いは実家での上流階級の者としての振る舞いと重なることが多い。

 毅然とした態度、落ち着き払った振る舞い、その指先の仕草一本一本に至るまで周囲の視線があるということを常に心に置きながらそれらを自然な振る舞いとしてこなさなければならないのだ。


「銀虹亭はこの建物の3階になる。建物の中の裏方通路で店まで行くよ」

「はい」


 こういう大きい建物の場合、客が行き来する表の通路と酌婦や従業員が出入りする裏の通路と分かれている。その裏側の方から店に入るのだろう。

 ここから先はシュウ女史を信用するしかない。

 建物の南側正面入り口前に至宝馬車が停車し、馭者が速やかにステップと入り口扉を開けてくれる。

 馭者が車内の私たちに向けて声をかけてきた。


「どうぞ、お降りください」


 先に降りるのはお目付け役のシュウ女史、


「ご苦労」


 彼女は愛用のドレス姿で車外に降りると、ステップのすぐ隣で私の様子を見守っている。それに気づきつつ私も座席から立ち上がると、静かに歩みを進めながらステップを一段一段降りていく。


――コッ、コッ、コッ――


 足に履いたアスパルガータのヒールが心地よい音を鳴らしていた。

 私が着ているドレスは後ろ身頃の裾が長く、ドレスのトレーンのように裾を引く形になる。ドレスが印象的なシルエットを描きながら揺れていた。

 大星楼の建物の入り口へと歩いて行こうとしていると、通りすがりの人々の視線が私の方へとひとつに集まるのがわかる。

 1人の初老の男性が言う。


「これはなんと美しい」


 その言葉に同意するかのように周囲から多くのため息が漏れた。


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