ルストと極上のドレスの着付け(前編)
私の出来上がり具合を、シュウ女史にも見てもらう。はたしてその感想はいかに?
呼びかけられて籐椅子から立ち上がると私の方へと歩み寄ってくる。そしてしばらく無言のまま私を色々な角度から眺めていた。すると――
「良いわね。実に見事だわ」
「お褒め頂き光栄でございます」
そのやり取りをしつつ、シュウさんは私のガウンを軽く前を開いて体を見聞しようとする。
「肌の仕上がりも良いわね。急な依頼だったので心配だったのだけど、やはりあなたに任せると仕上がりが上品だわ。ありがとうトゥーフォ」
「身に余る光栄ですわ」
その傍らでシュウさんに体をジロジロと見られて少し恥ずかしかったが、お褒めの言葉の連続に嬉しくもあり誇らしかった。
「本当にありがとうございます。次は衣装ですね」
まだ準備は終わっていない。衣装をまとい、装飾を仕上げてそれで初めて出来上がりなのだ。
「お任せください。それこそ私の得意とするところですわ。さ、こちらへ」
そして、トゥーフォさんに手を引かれながら隣室へと向かい、高級酌婦として仕上げるのだ。
「お願い致します」
夜の仕事への準備もいよいよクライマックスを迎えようとしていた。
† † †
シルクのチュール素材のガウンをまとい、またもや別室へと移動する。次に足を踏み入れたのは、ウォークインクローゼットルームと繋がっているドレスフィッティングルームだ。
壁1面が鏡になっており自らの着替えの様子を余すことなく見ることができる。自分自身で、自らが何を着こなし、どう装うのかを確かめながら着替えを楽しむことができる。まぁ、この辺りはある程度の身分の候族家なら珍しくはないのだが。ただこの館に関しては規模が違う、普通は壁にはめ込まれた全身サイズの大きな鏡がせいぜいだ。
フィッティングルームに入ると、即座に侍女の人たちが集まってくる。ガウンが脱がされて一糸まとわぬ姿になり衣装合わせが始まる。
車輪付きの衣装掛けがあり、そこに私が今夜身にまとう衣装一式がかけられている。最初に用意されたのは下半身につけるパンタレット。普通はへその下あたりから足の付け根までを大きめのサイズだ。
しかし夜に生きる花街の女性達はそんなものは身に着けない。三角形の細長い股布に両腰に引っ掛けるサイドストリングがついているだけだ。言わば、極小サイズのパンタレットであり、世の中の市井の女性たちは〝娼婦下着〟と呼んでいる。
夜の街花街にて仕事をしている女性たちが意図的に好んで使う下着だからだ。
深ぶどう色のサテンシルク素材で黒い縁取りと腰ひもが付けられている。縁取りと腰紐にも細工がしてあり、さりげない大きさのレースのフリルが手縫いされていた。
股間を覆う部分の大きさは本当に必要最小限で、お尻に至ってはほぼ丸見えと言っていい。侍女の方が差し出すそれに両足を通して履かせてもらう。装着時の位置調整も手慣れたものだ。
一番大切な所を隠したところで、上につけるブラレットが来るものだと私は思い込んでいた。ところがだ――
「さぁ、こちらをどうぞ」
差し出されたのは本命のドレスそのもの。身につける下着は極小のパンタレット1枚だけ。後は何もないのだ。
私は戸惑いつつ腕の仕草で胸を隠しながら、尋ね返してしまった。
「あ、あの、胸につける下着は?」
するとシュウさんが声を上げて笑ったのだ。
「何を言ってるんだい。あるわけないだろ? ブラなんてそんな無粋なもの!」
傍らでトゥーフォさんが頷いているのが印象的だった。
「何のために手間ひまかけて体を磨いたんだい? さりげなく自分の体を誇示するのも夜の町の女の特権だよ?」
シュウさんの言葉を補足するようにトゥーフォさんが教えてくれた。
「夜の町の女――、特に高級酌婦は露出度の高いドレスを身に纏います。それに今の流行りは背中の地肌を露出させたベアバック風で、可能な限り背中を全て魅せるのが〝粋〟だと言われています」
そして、2人の侍女が携えている1着のドレスを指し示した。
「このドレスであなた様が身にまとうのは〝己の体の美しさ〟そのものです。そのためにこそお体の手入れを施したのですから」
なるほどそういうことか。そうまで言われて納得しないわけにはいかない。つまり、自分自身の美しさを信じて堂々と客前に立ってこいと言っているのだ。
「わかりました。そういうことでしたら」
私は腕の仕草で胸を隠すのをやめた。それと同時に私のために用意された最高級のドレスを着させていただく。







